アストゥーリアスの「サークル・イン・ザ・フォレスト」、 プロビデンスの「伝説を語りて」と、舊いものばかりではアレなんで、とりあえず今年にリリースされたものも取り上げてみたいと思います、ということで、高円寺百景の最新作を。
高円寺百景といえば、マグマばりの恐ろしいユニゾンが展開されるファーストのインパクトが強く、その風格を更に深化させたセカンド「弐」までは自分的にもかなりツボだったんですけど、正直、サード「NIVRAYM」ではルインズ風の複雜な變拍子を軸に据えた作風へと轉化してしまい、ファーストやセカンドで見られた体育會系の應援歌のような歌心が失われてしまったように感じられ、実をいうと本作にもあまり期待はしていなかったんですよ。
しかしそれがどうでしょう。最初の一曲でもう叩きのめされてしまいました。一曲目の「TZIDALL RASZHIST」は薄く流れるキーボードに美しいピアノ、そしてオペラ風のボーカルで始まるのですが、このマグマでいえば「COLTRANE SUNDIA」のような雰囲気が一轉、レコメン節爆発の、腦天を直撃する變拍子ユニゾンが凄まじい展開にすっかり魂を奪われてしまった譯で。
ピアノとクラリネットが全体の展開を牽引していく曲風は、マグマでいえば「WURDAH ITAH」に近いんですけど、もうマグマと比較するのが莫迦莫迦しいくらいに過激。メンバーが一丸となって歌われる脅迫的なユニゾンはファーストやセカンドの雰囲気を髣髴ととさせますし、その合間にクラリネットとギターが狂ったように奏でるフレーズには鳥肌がたってしまいます。とにかくもう、この曲だけで本作は傑作認定してもいいくらいの出来榮えなんですが、この後も更に新生高円寺百景の凄すぎる曲がテンコモリなんですよ。
全体の雰囲気はマグマというよりは、チェンバーロック。まずこの曲を聴いてマグマの「WURDAH ITAH」と同時に頭に浮かんだのが、THE MUFFINSの「185」。要するにレコメン、チェンバー系のせわしなく転調を繰り返す曲だということです。
「RATIMS FRIEZZ」は民族音楽風の導入部に、高円寺百景らしくないなあなどと考える暇もなく、氣合いの入ったオペラ風ボーカルが入ると、その裏では手數の多いドラムがバタバタと暴れ回るという按排で、後半はノリのよい展開へと至ります。
「GRAHBEM JORGAZZ」は不安を煽るようなコーラスからすぐにオペラボーカルがその場を一閃、脅迫的なユニゾンが場面を一轉させます。やりすぎと思うくらいに激しいドラムも凄いんですけど、低音部に響きまくるベースも怖い。さらにせわしないピアノの旋律と混沌を煽るようなクラリネットの掛け合いに併せて歌いまくるボーカルと全てが完璧です。
「FETIM PAILLU」はピアノとオペラ風のボーカルの堂々たる導入部から、叩きつけるようなピアノとドラムの旋律や、デロデロと低音で鳴り續けるピアノに雄叫びが凄まじい。さらにはブカブカと爆発するクラリネットと目まぐるしく變轉する展開に眩暈さえ催す恐ろしさです。それにしても、吉田氏のドラムと激しく吹き鳴らされるクラリネットが怖すぎですよ。
「QUIVEM VRASTORR」は前の四曲に比べると、かなり軽いノリで聽ける曲。ここでようやっとひと息つけるというかんじです。それでも中盤の激しいコーラスなど聽き所も多いです。
「MIBINGVAHRE」はポコポコしたパーカッションとアフリカの民族音楽みたいなコーラスに、凶惡なベースが滑り込んでくるや、オルガンとクラリネットが縱横無盡に掻き乱すという展開。正直、ここまで転調が激しいとかなり疲れますよ。決してBGMとして聽けないところが本作の缺点というか何というか。
「NGHERR SHISSPA」は発狂したクラリネットに吉田氏のいつもの卷き舌ボーカルが聽ける冒頭部から、セカンドで見られたような凶惡なコーラスの導入部へと轉じて、ジャズロック的な展開となります。激しく転換する旋律にこれまた何が何だかという感じで眩暈がしてしまうのですが、やはりここでも堂に入ったオペラ風のボーカルに激しく切り込んでいくクラリネットが怖い。
そして最後の「WAMMILICA IFFIROM」はコーラスにフェイドインしてくる樂器群、そのあとに續く流れるような激しい變拍子を伴ったユニゾンが堪らなくいい。何処か親しみを感じてしまう主題が繰り返される中盤、そして「M.D.K」フウのスローテンポで暗黒世界へズンズン沈んでいく後半から冒頭のテーマへと回歸して終わる展開も素晴らしい。ファーストに収録されていた「AVEDUMMA」や「SUNNA ZARIOKI」を髣髴とさせる名曲といえるのではないでしょうか。
という譯でマグマファンに訴えるものがあることは勿論のこと、ヘンテコなチェンバーロックが好きな人にも聽いていただきたい傑作です。おすすめ。