地の文、長過ぎですよ。
第11回日本ホラー小説大賞長編賞受賞。「まごうかたなき才能の持ち主である」と直木賞受賞作家に太鼓判を押されているくらいですから、本作も素晴らしい小説なんでしょう。
しかし自分的にはどうも、……何というか小説としての結構が非常に不格好なんですよ。去年の長編佳作「レテの支流」はかなり愉しめた自分ですけど、本作はダメでした。
物語は冒頭、主人公が大學のゼミで一緒だった女性から突然、ロマンスカーの展望車から外の景色を撮影してくれ、という奇妙な依頼を受けるところから始まります。しかしこのシーンが終わったあと、冗長な、というか無駄に長い地の文が延々と續き、物語は「主人公がロマンスカーに乘る」「人が飛び込む」「ビビる」「どうしようどうしよう」「でも」やっぱりまたやる」「主人公がロマンスカーに乘る」……の繰り返しが何度も何度も續きます。
「1303号室」など大石センセの作品群を挙げるまでもなく、これほど執拗に同じ展開が繰り返されれば、普通はB級テイストの珍妙なトリップ感が生まれてくる筈なんですけど、本作の場合、まず無駄に長すぎる地の文がそうした風格を生ぜしめるリズムをすっかり失わせているんですよ。直木賞作家の選考委員いわく、「純文學系の新人賞に応募しても、かなり高い評価を得られるに違いない」作品とのことなので、本來はこういう長すぎる地の文にも讀者は文學的香氣を感じ取らないといけないのでしょうけど、自分はダメでしたよ。
やがて主人公が關わることになった奇妙な仕事のからくりが明らかにされていくものの、その間にも主人公が齒醫者に通い詰めるシーンが執拗に繰り返されるのがこれまた意味不明で、主人公の母親がかつて自殺していることが語られたり、主人公が突然バイトを首になったりと、中盤はそれなりにイヤーな展開になってきてかなり期待させるのですけども、この謎が明らかにされた時點で物語は急速に失速してしまいます。
更には主人公がブチ切れて最後の最後で愛犬をアレしてしまったり、氣配を感じさせつつも終盤までまったく姿を見せなかった主人公の父親が急に登場したかと思うと、それにはまったく意味がなかったりと、小説の結構として意味不明なところも多く、無駄の多い地の文とも相俟って自分はどうにも物語を愉しむことが出來ませんで。
超自然的な何かが黒幕にいるのかと思いきやあまりにもベタな結末に、ミステリとして見た場合もかなり苦しいし、やはりこれはミステリ、ホラーというよりは、長い長い長すぎる地の文で綴られた主人公の不可解な心象風景や社会の闇に、純文學としての高貴な香りを感じ取るべき作品なのでしょう。直木賞作家が「純文學系の新人賞に応募しても、かなり高い評価を得られるに違いない。文章によって、これだけの緊張感を持たせられるのはたいしたものだ。まごうかたなき才能の持ち主である」といっているんだから、本作が凡作の類である筈がありません。
純文學好きな人にはいいでしょうけど、ホラー、ミステリ、幻想文學といったエンタメを求める方はスルーした方が宜しいと思います。