數ある山田作品の中でもとりわけ「幻象機械」と「エイダ」がお氣に入りの自分としては、これはもう完全にやられてしまいました。
「幻象機械」という言葉はそのまま本作にも登場して思わずニヤリとさせられるし、物語の後半、現實と幻想の境界を見失った主人公が驟雨の中を彷徨うシーンなど、當に「幻象機械」を髣髴とさせるような個所が澤山あります。
作者自身は後書きで好きな作品と公言していますが、山田作品の中では異端でしょうねえ。彼の筆に拠るミステリといえば、そのどれもこれもが正當なミステリというよりは、アンチミステリ的な趣向を凝らしたものが多いのはご存じの通り。とはいっても、この物語は、「妖鳥」や「螺旋」のような、物語の進行に明快さを伴ったものではありません。讀み終えた後、エリソンドの「ファラベウフ」を思い浮かべてしまったのは何故でしょう。
物語の冒頭と後半、執拗に繰り返される雨の描写などが、ヌーボーロマンの怪作ともいえるこの作品を想起させたのかもと考えてみたりする。或いは何が起こっているのかがよく分からず、讀者はそれを手探りで探っていくようなところも似ています。
傑作というよりは問題作でしょう。正統というよりは異端。或いは山田版「ドグラマグラ」。2004年度版「幻象機械」。