アイドル寫眞集というよりは普通の寫眞集として愉しみたい傑作。
自分がこの本を手に入れたというのも、橘実里が好きというわけではなく、当時は野村誠一に興味があって、彼が撮影した寫眞集を蒐集していたというのが理由。
野村誠一は、たびたび作風を変えている。昔は薄暗い闇のなかに陰影のある影をつくっての撮影が多かったけども、この寫眞集が撮影された当時は、アンダーという点では昔と変わりはないものの、ハイキーで彩度の高い、こってりとした油繪のような畫風が強烈な印象を残す。
ロケ地上海を百年に一度の大雨が襲い、どうやら撮影はそのすぐあとに撮影されたらしい。何処か喧騷のあとの靜謐な雰圍氣が写真から漂っているような氣がするのも偶然ではないと思う。
ただ橘実里のファンがこの寫眞集をどう思うかというとちょっと微妙かな、という氣がする。勿論美少女で素材として素晴らしいことはいうまでもありません。
アイドル寫眞集といえば、アイドルが主、景色が從となり、アイドルの写真の間に、くだらない風景写真が挿入されていたりすると興ざめしてしまうものなのだけども、この寫眞集の場合、大雨のあとの上海の街の風景が獨特の雰圍氣を釀し出しており、アイドルの寫眞集というよりは、アサヒカメラのフロントページあたりに掲載されていそうな風格さえ漂わせているのだ。
純粹にアイドル寫眞集として見ればちょっと疑問のところもあるのだけども、個人的にはかなりお氣に入りの一册である。