あらすじを読んでもガーゴイルだのデスゲームだのとよく判らないというのが正直なところだったりするわけですが、実際の内容はというと、悪魔たちが宿業を背負った人間どもを競走馬に見立てて、誰が最後に生き残るのか賭けてみようジャン、――という話。いつになく地の文にはミッチリと書き込みがなされてい、それがまた人間世界というよりは、悪魔の視点、――あるいはそれをも超越した神の視点の存在をほのめかしている結構など、ホラーでありながらSFでもありというような、山田ワールドとしかいいようがない逸品です。
競争馬に見立てられた人間たちはいずれも、介護要アリの母親がいたり、犯罪のプロである親父に育てられ、実姉との近親相姦という宿業を抱えていたりと一癖もふた癖もある輩ばかりで、彼らが悪魔の奸計をも離れた紛れによって件の死のゲームに巻き込まれていきます。
最初はこの結構が判らず、悪魔の存在なども山田ワールド独特の幻想なのか比喩的表現なのか判然としないまま、件の死のゲームが進められていくゆえ戸惑うことしきりだったのですが、中盤で件の悪魔が作中では実在するものとして語られ、このゲームと悪魔たちが設定したルールなどが明かされたあとは俄然、物語も加速していきます。悪魔たちが賭けていた人間たちは勿論最後には業としかいいようがない死に様を晒すことになるわけですが、ミステリ色の薄いと思われる風格にあって、最後の最後、あるシンプルなトリックが仕掛けられていたことが開陳され、それによって黒い、としか言いようがない結末へと至ります。
この黒さというか、悲惨さが何ともな無常観を醸し出しているところが秀逸で、またどこからどこまでが悪魔の奸計の計画通りに進んだのか、――あの種の紛れが登場人物たちを結びつけ、この死のゲームを展開させていくキモになっているのですが、それらもまた悪魔の思惑だったのかどうか、案外、それらは悪魔たちが存在を否定しようとしている神の操りだったのでは、……などということを考えてしまうのも、中盤におぞましい悪魔たちが神の存在について語り合うシーンを挿入しているからで、ホラーというよりは、山田ワールドの中でもSF的な風格を色濃く出しながらも、悲劇的な結末にミステリ的な仕掛けを連関させ、黒い寓話に仕上げてみせたところも素晴らしい。
山田氏としては角川ホラーには初参戦となる本作でありますが、やはり角川ホラーというよりは山田ワールドの個性が色濃く出た一作ながら、山田SF、山田ミステリともにホラーの風格の中に込められた氏の個性を堪能できるのではないでしょうか。