大石ワールドの最新作は何と連作短編集。とはいえ、内容の方はというと絶妙にサンプリングを効かせ、過去作のネタをさまざまに織り交ぜて構築したいつもながらの大石小説でありまして、ざっとまとめてしまえば「自由殺人」フウに邪悪な思いつきを実行できる力を与えられた一般人が主人公で、その力を与えてくれる存在が「人を殺す、という仕事」フウに超越的な存在で、……という話。
いずれの話も、登場人物のプロファイルが冒頭にざっと語られ、件の超越的存在たる美少女がフと現れるや「時間よ、とまれ!」と、六十秒間だけ時間を止めてしまうデモンストレーションを披露。呆気にとられていた主人公もホンモノと判ると、どんなことをしてやろう、あんなこといいな、できたらいいな、と邪悪な妄想でムフムフしてしまい、いよいよ……という展開でありまして、中盤までは、上に述べた前半部のデモがサンプリングで繰り返されるという大石小説的ともいえるエコな自己模倣も秀逸です。
最終話も含めて全十一話というほどよい長さで、収録作は前半と後半でやや毛色が異なります。前半は「薔薇色の選択」や「Last one minutes」「ぴったりのセーター」など、ちょっと泣ける話がいい。特に「ぴったりのセーター」は、あるアイテムが絶妙な誤導として作用しており、邪悪な結末に落ちるのかと思っていたら、意外や意外、まさかこの主人公でこういう幕引きが用意されているとはチと吃驚。泣ける、という点では収録話中、ピカイチだと思います。
もちろん大石小説ならではの邪悪な話もシッカリとあって、「人生でもっとも長い60秒」などは、二つのシーンを交差させた短編にしてはやや人工的なつくりの結構がこれまた意外な連関を見せる展開がキモ。「恐ろしい思いつき」と「誰が赤ん坊を殺したのか?」は、後半の謎解きめいた流れへと繋げるための逸話にもなっていて、「恐ろしい思いつき」は確かにタイトル通り、この現場には絶対に巻き込まれたくない、と読んでいるこちらの怖気を誘う着想がいい。
そして最終話「あなたの場合、君の場合」はタイトルからも想像される通り、二人称で進められる物語なのですが、ここにチラリと出てくるアイテムや語られる「あなた」が、あとがきの中でおそろしいものを暗示していたことが明らかにされるのですが、本作中、一番の衝撃がコレ。まったく想像もしていなかった人物が本作の「読者」であったことが大石氏の口から明らかにされ、それが「あなた」への語りかけで構成されていた最終話、――この物語に込められた作者の思いを開陳するという構成が凄い。
大石小説を読み慣れたファンであれば、短編とはいえまず普通に愉しめると思うし、実際「うぶっ、うぶぶっ……」といった大石ワールドの口淫プレイもあったりとサービス精神に溢れた一冊ながら、あとがきも含めた全体として見るとこの試みは怖い、というかとにかく凄いと感じました。この種を明かすことはできないのですが、貴重な読書体験となるであろうことは間違いないのではないかと。オススメ、でしょう。