「パラレルワールド」に「ラブストーリー」ですから、佐藤正午の「Y」みたいに切ない物語かと思いきや、「いったい何が起きているのか」という謎解きを主体にしたミステリでした。記憶の改変によってもうひとつの世界を創出する、というネタは前に讀んだ早瀬乱の「レテの支流」と同じであることに今氣がつきましたよ、というか、こっちの方がネタ元ですかね。
「レテの支流」が記憶に関する違和感をホラーな展開へと繋げているのにたいして、本作は二人の男性と一人の女性という三角関係を絡めて、見事なミステリへと昇華させています。
何となくアイテムとか設定が佐藤正午の「Y」とかぶっているような氣がするんですけど、偶然でしょうね。
例えば序章。田端、品川間の山手線京浜東北線が「線路はまったく違うが、二つの電車が同じ方向に、しかも同じ駅に泊まりながら進んでいく」として、主人公の男性は京浜東北線に乘っている女性を見つける、……というところなのですが、「Y」は井の頭線だったけども電車で主人公とヒロインが出会うというところは同じ。
また主人公の親友は脚が不自由なんですけども、これも「Y」と同じだったりして。
バーチャル・リアリティ、パラレルワールド、記憶の改変というSF的な要素を組み合わせつつ、着地點はしっかりとミステリになっているところが、自分としては少し物足りないんですよねえ。「クラインの壷」みたいにもう少しひねくれた纏め方をしてくれればもっと好きになれた小説なんですけども、ちりばめた謎を過不足なく回収してしまうので、普通のミステリに落ち着いてしまっているのです。
嚴密にはパラレルワールドものではなく、バーチャルリアリティもの(というジャンルがあるのか分からないけども)でしょう。