鳥飼氏の作品をすべて讀んでいる譯ではないのでアレなんですけど、あまりに「らしくない」作風にチと吃驚。物語の舞台から登場人物から、何だかテレビドラマをノベライズしたような風格で、個人的には正直ビミョーというか、ちょっと讀み方を間違えてしまったようです。
物語は、大手玩具メーカーの人事部で「特命」を受けて社内の事件を解決する只野、――もとい物部君が活躍する物語。事件といっても、娘っ子の無断欠勤はイジメが原因らしいんでそいつを調べてくれ、とか、飛び込みで会長夫人のワンコ捜しとか、緩すぎるネタだったのが、件の無断欠勤から新商品モデルの盗難事件へと繋がっていき、――という話。
ちなみにこの特命を受けて行動する探偵物部君にはとある特殊能力があって、時には「さりげなく」その力を使って推理の手がかりを・拙んだりする、……というか、そこまでシッカリとこの秘技を使わないところがもどかしく、個人的にはこの特殊能力によって、事件に関係した人物の発言を「仕分ける」ネタだけでも、かなりの色々な見せ方が出來るのでは、と考えられるものの、本作ではそのあたりをアッサリと流しつつ、キャピ娘なども交えての、まさにテレビドラマをノベライズしました的なノリで物語が展開されていくところには脱力至極。
とはいえ、最後の最後まで脱力のみで終わらないのが本作の面白さでもありまして、キャピ娘などを交えたユルーい舞台に隠されたあるブツに違和への「気付き」を添えて、ストーカー事件から盗難事件までが一本の線によって繋がっていく後半の推理はなかなかのもので、特にここでは盗難事件や飛び降り自殺といった個々の事件に添えられた単体のトリックよりも、各人の思惑が交錯して見えていなかった事件の構図を推理によって繙いていくところが面白い。
そう考えると、このテレビドラマのノベライズ的なユルーい物語の雰囲気も、寧ろ読者にそうした部分を悟らせないための仕掛けのひとつなのカモ、と強引に納得しようとはするものの、それにしてはデブストーカーの飛び降り自殺の真相や、盗難事件など、大きく広げれば結構盛り上がるであろうネタをフラットに見せているところなど、いつもはバカミスでハジけまくる鳥飼氏のキワモノ本格ミステリを愉しんでいるマニアとしては、物語で語られている事件よりも、このあまりの「らしくなさ」の方に激しい違和感を覚えています。
これって鳥飼否宇じゃなくて、烏飼否宇とか島飼否宇じゃないノ、なんてかんじで何度も何度もジャケの作者名を見返したものの、やはり間違いはない様子。ここまで自らの基本路線の風格を押さえに押さえて見事に脱色してみせるというのも、フツーの作家であればそうそう出來ないことでありまして、そういう意味では本作、実は凄い作品なのカモしれません。
バカミスを期待すると相当にアレゆえ、敢えてここは「バカミス」の鳥飼否宇の作品というよりは、テレビドラマのノベライズを擬態した「ユルミス」として讀むのが吉、だと思います。