キワモノミステリを求めて、再び草野センセの文庫本の中から一冊をセレクトしてみました。「三幕」なんて言葉を添えてはいるものの、別に牧師が酒飲んでブッ倒れるようなお話ではなく、こちらは感電死とひき逃げのコンボに老人どもが娘っ子をひったててゴルフ場建設反対の狼煙を上げるというストーリー。
温泉が枯渇してはこの町はもうオシマイ、と焦った町の有力者がゴルフ場建設をもくろむも、それに反対する地元民がスキー場建設を掲げて猛反発。しかしワルどもは反対運動のトップを事故に装って殺害、さらにはその息子も車で轢き殺すという豪腕を発揮、残された娘は二人の肉親の死に不審を抱くとともに、町の老人たちと事件の真相究明に乗り出すのだが……。
前半は件の感電死への推理が緩くなされるものの、もう中盤でアッサリ過ぎるほどにこの事件のトリックが明かされて、さらにはその推理を突き付けられた犯人が「わっははは」と高笑いをしてみせるという展開まではいいとして、ここで犯人が分かってしまってもまだまだ半分は頁は残されている譯ですから、いったいどんなフウになるんだろうと思っていると、何と、件の犯人はホントの事故死でご臨終。
この事故にはヒロインがザックリと絡んでいるゆえ、倒叙ものの変型みたいな形で後半は進めていくのかと思っていると、草野センセはそんなミステリ・ファンの期待もマッタク無視して、第二の殺人であるひき逃げへと話をフォーカスしていきます。まあ、とはいえ、ここまだ許せるものの、その後はもう、黒幕はアッサリと割れるわ、そいつに操られてたたひき逃げの実行犯も足を使った調査でアッサリと明らかにされてしまうという、推理もヘッタクレもないかたちで事件が収束してしまうところは火サス以下。
最後に黒幕との一騎打ちをはたすべく、爺どもがワイノワイノと大立ち回りでも演じるのであればまだ愉しめたものを、あまりにアッサリ強引に話を纏めてしまうダメミスぶりにはスッカリ魂を抜かれてしまいましたよ(苦笑)。
こうした軽さを前面に押し出した風格にも關わらず、事件が解決したあとヒロインがひき逃げの実行犯に同情を見せると、爺の一人は「そうだなー。**は単なるロボットにすぎなかったのかもしれん」と娘っ子に同調してみせるも、一人の爺だけは「そんなのは、つまらん感傷だよ」と一蹴、
「たとえロボットだとしても、徹さんを殺した犯人だ。憎むべきだよ。いや、憎まなくちゃならんのだ」
「わかりました。今のは訂正します」
と美香。
フツー、こうした軽いミステリであれば、可愛そうな犯人には作者も同情を寄せた幕引きを用意してあげるものの、警察に捕まったあとも容赦しないという爺の鬼畜ぶりと、爺の「ロボット」となってその言うことをアッサリと受け入れてしまうヒロインの受け身過ぎる態度に苦笑至極と、そのすべてにダメミス臭を漂わせる逸品です。
とはいえ、ではツマらないかというと、これが草野センセの讀みやすい文体とも相まって、思いのほかスラスラと頁をめくってしまえて、さらには讀後も上に挙げたようなダメミス的な要素には苦笑こそすれ、決して怒りがこみ上げてこないという草野マジックは本作にも健在です。
本作、あちこちの古本屋の100円コーナーで見かけるので、頭は使いたくないけどミステリが讀みたいというときのお共にどうぞ、ということで、ダメミスマニアにのみオススメしておきたいと思います。