文庫で持っているブツも下手をすると二十年以上前の代物でボロボロゆえ、復刊されるとついつい買ってしまうのが寿行センセの旧作で、今回は徳間からの一冊です。
もうすでに物語のあらすじも失念していて、ダメ人間が洞窟にハーレムを大構築、とそれくらいしか記憶に残っていない状態で再讀を始めた為、今回もゲス野郞たちの天国と地獄を思い切り愉しむことが出來ましたよ。
物語の主人公は会社でも閑職に追いやられてしまったダメ男で、趣味はハンティングながら栗鼠や鴉にも小馬鹿にされてしまうというヘタクソぶり。美尻妻は男をつくって浮氣中だし、とにかくやることなすことダメ駄目なこの男が狩猟に出かけた先でひょんなことかお宝イッパイの洞窟を大發見。しかしこの時に気弱男はちょっとしたことから人を殺してしまったものだから、あとはもうやけっぱちとばかりに飲み友達をも巻き込んで、女を攫ってきては洞窟にハーレムを築こうとするのだが、……という話。
とにかく主人公をはじめとしたダメ三羽烏の造詣が見事で、社史編纂室付けの主人公に、麻薬を使って看護婦をレイプしたすえクビになった藪医者に、DIYの女狂いと、こんな三人でありますから、誘拐事件を画策するも最後の最期で下手を打つわ、おまけに物語の終盤では君臨していた王国もアレになるわともう大變。
かといって決してユーモアに流れる作風でもなく、寿行センセの代表作「地獄」にも通じるダメ男を描きながらも、誘拐して奴隷にする女のことごとくがジーパンの似合う美尻女だったりするところは期待通り。それでもやはり登場人物の中で一番光っているのは中盤から登場して、物語を引っかき回していく女刑事、京子の造詣でしょう。
誘拐事件で犯人を取り逃した警察が囮捜査にこの京子を警察庁の方から駆り出してきて、地元のモジモジ君とコンビを組ませるのですけど、ホテルで宿泊した部屋がダブルではなくてツインだったから、傍らに美人でやり手の年上女が寝ているというのはモジ男にしてみればこのおあずけ状態は正に「拷問に等し」い。最後には土下座してお願いをするシーンもしっかり添えて、作中に登場する男はすべてダメ男というポリシーを堅持しつつ、後半のトンデモない展開へと雪崩れ込んでいきます。
「おかえりなさいませ、ご主人様」と昨今のメイド喫茶の決まり文句を地下洞窟のハーレムを舞台にやりたい放題の男天国が、京子の登場によって地獄絵図へと切り替わる反轉もステキで、寿行ワールド的に言えば正に男根様からお尻様へと急転する展開が素晴らしい。
学生時代に讀んだ時は、男天国の地下ハーレムという設定ばかりに目がいってしまっていたのですけど、社会人生活も長くなると、主人公のダメ男ぶりに自らの現在を投影してしまうところが個人的にはアレながら(鬱)、最後の最期にはダメ男の矜持を見せての真っ黒な幕引きもまた「世の中そういいことばかりじゃないんだよ」という苦い教訓を含んでいるようにも思えます。
例えば最近取り上げた「垰」シリーズのような感動物語とは対極にあるようなダメ人間のお話なので、肩の力を抜いて愉しむのが吉、でしょう。