暫くは唄もので個性的な一品をとりあげていこうと思います。
まずは超個性的なものを日本から。おそらく多加美のこのアルバムはプログレ畑の人たちにはちょっとは知られたものだと思うんですけど、いったいどういう人が好んで聽くのかというほどにアクの強いアルバムであります。
確かにプネウマのキーボードと音響距離はかつてのジャーマンロックの一番濃厚な部分を抽出したかのような、凄まじい個性があるのだけども、それ以上に多加美の声の、……土俗的というか呪術的というか、……DEAD CAN DANCEのリサも裸足で逃げ出してしまうような鬱屈した歌唱法には度膽を拔かれること受けあいです。
一聽すると調子っぱすれの、鬱々とした詩を朗読しているかのような歌い方はアルバム一枚を聽き通すのには大変な苦労を強いる、……のだけども、それでも暗さのなかにあるいいようのない美しさは捨てがたい。
例えば三曲目の「雨あがりの街(わたしは手に鈴をもって)」などはそのオカリナの音と多加美の震えるような声との融合が壯絶な美しさを現出しており、もし澁澤龍彦あたりが耳にしたら、絶贊するのではないかなという出来榮えです。
寄せてはひいていく彼女の声に獨特の音響処理を施しただけの一曲、「イノセント」は流石に聽き通すのが辛いけども、「現身のエーリス」などは民族音楽的なリズムをともなっていて聽きやすいし、「あなただけの……そしてわたしだの」も獨特のドローンと、多加美の鬼気迫る歌聲がどうにも耳に残って離れない、當に呪いのような一曲。
どこまでも暗いアルバムなのだけども、かといって、氣分が鬱々としているときに聽いてみたくなる音樂でもないし、なかなかプレイヤーに載るめ機会の少ないアルバムではあるけども、一度は怖いものみたさ(聽きたさ?)でもいいから聽いていただきたい一作であります。