壮觀、エロ白昼夢。
時々無性に讀みたくなる我らがキワモノマニアの女王、戸川センセの作品なんですけど、前回が長編大傑作「夢魔」だったので、今回は短編集。こちらは徳間ではなく、これまた大傑作のキワモノが目白押しの「ブラック・ハネムーン」をリリースした双葉社の中から今日は「霊色」を取り上げてみたいと思います。
まア、作風の方はというと、戸川センセのファンだったら安心して讀むことの出來る、怪奇とサイコとエロといった變態のフルコースに、操りや入れかわりなど、さりげなくミステリ的なネタを仕込んだ作品が目白押し。
収録作は、女を催眠状態に陥れたあと擂り粉木プレイで遊びまくる變態教祖のお話「霊色」、ゴム恐怖症シンガーの付き人となった男の受難を描いた「ゴムの罠」、マリファナでラリった太鼓叩きが女の白い臀を叩きまくる「白い打楽器」、奇想SFが最後に戸川版「やる気まんまん」へとハジける「恍惚の向こう側」。
口淫マニアのさぶ男君がキ印學者のトンデモな陰謀に巻きこまれる「太陽の生贄」、異國歸りの男に仕掛けられた同性愛マジックの眞相とは「オレンジ色の鳩」、自殺嗜好の薔薇族とモデル男の出會いに因果なオチを絡めた「ハッピー・ソング」、キ印の人形師とマネキン工場で巻きおこるサイコスリラー「蝋の肌」、電波監督をしたがえた一行がパリで失踪女のヤラセ番組を撮影する「裂けた鱗」の全九編。
この中でもやはり奇天烈度では頭一つどころか天界を突き拔けてしまっているのが「白い打楽器」で、これはもう戸川センセしか書き得ない、というか誰もこんなもの書かないだろう、という一編です。
物語はマリファナでラリった太鼓叩きがラテンの情熱的なリズムに合わせて太鼓を叩きまくるシーンから始まるんですけど、この太鼓というのが實は女尻。この官能的ともいえる演奏場面を讀んでいる最中は、太鼓を女に見立てた譬喩なんだろう、なんて思っていたら何と、次節ではこれが本物の女尻であったことが明らかにされるところでまず唖然。
この女尻太鼓を使って収録した演奏に男は御滿悦だったんですけど、どうやらこの夜の「太鼓」はそのスジの男の娘だったというからさあ大變、果たしてアメ車で乘りつけた「太鼓」のパパがラリ男に手ひどい拷問を繰り出す展開かと期待していると、物語は思わぬ方向に拗くれていきます。
手に入れた録音テープの「太鼓」の音が果たして娘のソレであるのかをシッカリと確認したい、ついては今から儂の目の前でこの娘の尻を叩いてもらいたい、とその筋のパパはラリ男にトンデモない要求をして、……。
マリファナで頭が溶けかかった男のモノローグも交えて、物語は幻想と狂氣のあわいを漂いながら進み、最後はラリ男が薬で頭をフラフラさせながら仁王立ちになってジ・エンド。とにかく女尻を打楽器に見立てる、というこの奇想だけでもキワモノマニア的には絶對に見逃せない怪作でしょう。
表題作「霊色」も、本格ミステリ的な騙しの趣向を交えた構成が光る作品で、「一部の宗教には、いかがわしい性的な布教を行い、信者を集めるものがある」という冒頭の一文から「これは、精神分析医が鑑定した報告書の中の、事件当日の模樣を小説風に書きかえたものである」という結びで終わるプロローグが終わるや、あとはもう延々とエロ教祖を語り手に、件の「いかがわしい性的な」儀式が描かれるという構成が堪りません。
因みにこの宗教というのは宇宙霊界大権現を名乘り、エロ儀式で使われるのはご神棒なる、「わしの掌いっぱいに握れるほどの、楠のご神木」。この教祖樣がジーッと女の目を見つめると、女は頭がボウっとなって何でも告白してしまうという、これまた「夢魔」の素晴らしい催眠描寫にグフグフと忍び笑いを洩らしてしまうマニアの期待にもシッカリと答えてくれるサービスぶりにも大滿足。
しかしこの教祖の毒電波ぶりは相當なもので、
「身につけているものは、みな脱ぐのだ。蛆虫どもだけが、綺麗なべべで身を飾りたてる。早う、脱げ!脱げ!」
「脱げ、脱ぐのだ、生まれたままの姿になるのだ、裸の赤ん坊に戻るのだ……」
と、とにかく女信者を惡霊で脅しつけては最後には脱げ、脱げの一點張り。で、件の擂り粉木を使って女遊びをするのですけど、實をいうとこのエロ教祖の最大の目的は自分のナニを使って、女に宇宙霊界大権現さまの子種を授かるようにする、というもの。
で、この目的を達成するが為、女信者に色々とエロいことをやりまくっている譯ですけど、脱げ脱げと脅し乍らも時にはカウンセラーみたいなこともやってしまうエロ教祖のワンシーンを引用するとこんなかんじ。
ご神油のかわりに、私は娘のお貝樣に唇をつけ、宇宙大権現さまのご尊名を、今度は舌の先で描きながらたっぷりとねぶってやった。
それでも我がまらのご神棒は、お貝樣の入口から一歩も先に進まなかった。
こ神棒が大きすぎるのであった。
「先生!やめて!お願い……痛いわ……痛い……」
突然、娘が上半身を起こして叫び始めた。
「どうしたのだ。今までに学校の先生に、ご神棒をあてがわれたことがあるのかね」
……って、大権現樣にお仕えしていない学校の先生のナニは、「神」棒とはいわないんじゃア、なんて思わずツッコミを入れたくなってしまうんですけど、このあと靈力によって力を取り戻した自らのナニを使ってエロ教祖は娘と事に及ぼうとするのだが、……。
トンデモない事件のあと、エロ教祖のモノローグから物語は一轉、この電波語りの中に隠されていた眞相が明らかになるという仕掛けは當にアレ。同じエロでも幻想的なエロが素晴らしかった、お氣に入りの某作家の手になる某長編を思い浮かべてしまったのは自分だけではないでしょう。
「ゴムの罠」や「裂けた鱗」もキワモノだけではなく、そのミステリ的な趣向を愉しめる作品です。電波なエロ監督に振り回されるディレクターを主人公に、フランスで失踪した日本人女性のドキュメンタリーを撮影する筈が、靴屋で見つけたマゾ女を主人公にヤラセ番組をつくることになってしまう展開が秀逸な「裂けた鱗」は、眞相を仄めかしたまま幕引きとなるところや、アラブ人のアジトにアポなしで突撃し、「ファック!レッツ・ゴー・ファック!」とアラブの若者をマゾ女にけしかける珍場面など、愉しみどころもテンコモリ。
他短編集に比較すると、よりエロに傾いた作風ながら、「白い打楽器」の奇想だけでもキワモノマニアには「買い」の一册だと思います。