傑作。ともにブ厚い上下巻はイッキ読み必至という逸品ながら、上下巻では雰囲気がかなり異なります。いずれもサイコパスである主人公のイケメン先生ハスミンこと蓮実の視点が基本で進行していくものの、上巻は彼の過去の逸話も交えつつ、いかに彼が恐ろしい男かというのをこれでもかこれでもかッという具合にネチっこく描いていくという結構です。格別彼に悪いことをしたわけでもないのに、自分が成り上がるためには、――というか自分が自由闊達に行動するために邪魔となれば即デリートという非情さがいうなれば上巻のキモ。
コロシはもちろんありとあらゆる手段で学校での地位をモノにしていく成り上がりぶり、さらには仕事だけではなく、高校を舞台にしたイケメンでユーモアイッパイ、さらには頭脳も完璧、バーリトゥード上等というスーパー教師とあれば、女学生に好かれるのも必定で、当然期待される教師と教え子とのムフフなシーンもシッカリと凝らしてあるサービスぶりにも注目でしょう。
こうしたエロスの風格に目を向けると、教師と教え子のカップルはもうひとつあって、こちらは女教師と頭の冴えたボーイ(ガンジャ大好き)との隠微な恋愛も用意されてい、女学生を英語の個人レッスンも交えてペットに調教していくというハスミン・バージョンよりも、むしろ自らの高校時代をボンヤリと振り返りながらかつての夢を体現してくれた女教師バージョンの方がイイっ、という方もおられるかもしれません。
上巻ではこのボーイが主人公の策謀の端緒を掴み、様々な行動を起こしてみせるのですが、そこは天才サイコパスであるハスミンのこと、そうそう簡単に尻尾を掴ませる筈もなく、彼とボーイとの対決は下巻へと持ち込まれます。個人的には主人公のこのボーイとの頭脳戦をもっと見たかったというのが正直な感想だったりするわけですが、本作一番の見所はあくまで下巻の皆殺し祭りということを考えれば、アッサリとボーイを退場させてしまった下巻前半部の構成はこれでイイ、ということもいえるかもしれません。
もうひとつ、個人的にもったいないなア、というか、作者の大胆さを見せつけられたのが、ゲス教師にして実はものすごい能力の持ち主である先生が一人、この学校には潜伏しているのですが、主人公とこの人物の隠微な策謀戦が上巻後半には展開されるかと期待していると、こちらも存外にアッサリと退場させてしまうというゴージャスぶり。こうした特殊能力を交えた濃厚キャラであれば、フツーはもう少し引っ張ってみてもいいものの、こうした駒もアッサリと捨てて、下巻では怒濤の殺戮ショーへと雪崩れ込んでいきます。
下巻は主人公のちょっとした失敗からトンデモない大虐殺へと流れていく展開となるわけですが、タイムスタンプも添えてスピーディーに進められていく結構は息もつかせぬ緊張の連続で、主人公がひとりまた一人と殺しまくっていくやりすぎぶりが大爆発。そして本作が優れているのは、こうした下手をすれば直線的に流れがちな殺戮の連続の中に倒叙の趣向も交えて、犯人である主人公の犯罪が最後にはいかにして暴かれてしまうのか、――その伏線を巧みに凝らしてあるところでしょう。
また殺し方についてもメインは銃とはいえ、主人公の卓越した身体能力を活かしたバーリトゥードで華麗にこなしてしまうシーンもシッカリ添えるとともに、混乱状態にある生徒についても対虐殺者へのトラップを仕掛けてみせるなど、皆殺しを双方向のアングルからとらえてみせた結構も素晴らしい。
ノンストップで大展開される主人公の犯罪はいかにして暴かれるのか、そしてその幕引きは、――どこか続編を期待してしまうホラー的な落とし方も秀逸で、最高のエンタメ小説としてどのような本読みの方にもオススメできる傑作ではないでしょうか。文句なしにオススメ、でしょう。
ちなみにタイトルにもなっている「悪の教典」から、そこここにプログレ・ネタが凝らしまくってあるんじゃないかナーと妙な期待をもって挑んだのですが、こちらの方はかなり控えめ。主人公にハメられて退学させられた坊主を絡めたバンドがアレのコピー・バンドということになっているのですが、これが何であるかはお楽しみ、ということで。