アジア本格リーグ第五彈、インドネシア編。物語を簡単にまとめると、離婚歴アリのセレブ女が出会い系で知り合ったイケメン野郎といいカンジになるもご臨終。女は宝石取引で揉めており、コロシにはその件が絡んでいるのではと推察されるものの、どうやら出会い系で知り合ったイケメン野郎も怪しい、果たして真相は、――という話。
出会い系といっても怪しげなものではなく、雑誌のワンコーナーでシッカリと個人情報も守られているというところがミソで、その裏をかくような形で犯人と犯行方法が明らかにされていくのですが、本格ミステリ的なトリックを基軸に据えた事件というよりは、動機の生臭さも含めて、よりリアル世界での犯罪に近い本作、謎解きものというよりは恋愛を絡めたサスペンスとして読むのが吉、カモしれません。
訳者の柏村氏が解説の中で述べている通り、本作では恋愛の要素が強く、それは事件の引き金となる被害者とイケメン野郎が知り合う経緯もそうなのですが、事件を調査する側である刑事を取り巻く人間関係の方にも濃厚に表れています。
そもそも本作、ノッケから事件もそっちのけで、刑事の娘っ子が、その相棒に対して「叔父さんのことが好き。好き好き大好きっ」と大胆にアプローチするという恋愛の驅け引きが描かれていて、コロシが発生するのは物語の半ばを過ぎてから。その間に件の出会い系で男を見つけようとするヒロインのことが描かれながらも、この叔父さんの事が好き好き大好きっ、というシーンに結構な枚数がさかれていて、読者の方としてもセレブなヒロインよりもむしろこの二人の行く末の方がきになってしまいます。
どうやら本作はシリーズものの一作とのことで、この刑事と相棒、さらには刑事の家族の成長譚もまた作者のテーマであるとのことなのですが、娘っ子の恋については本作のラストシーンでメデタシメデタシ、となったかと思いきや、解説を読むとどうやら違う様子。本作の事件と真犯人よりもむしろ、そちらの「事実」の方に吃驚してしまいました。
という譯で、コロシとその眞相そのものは、新本格以前を思わせる風格ながら、個人的には刑事を取り巻くホームドラマとして愉しんでしまいました。アジア「本格」リーグとしてはやや邪道な読み方ながら、恋する娘を持った親父の悩みや、娘っ子の気持ちを知りながらも恩人である刑事の心中を察して自分の気持ちに素直になれない相棒など、恋愛に絡めた人物描写は非常に纖細で、生臭いコロシの構図とは対照的に作者の書きたいのはむしろこっちの方ではないかナ、という気がする本作、ミステリとしての物語というよりはそちらの方を愉しむという読み方もアリだと思います。