刀城シリーズ最新作。シリーズの中では一読しただけではやや散漫な印象を抱いてしまうものの、それでもシッカリと水準をキープして二転三転する推理の趣向で愉しませてくれるところは期待通り。
物語は、雨乞いの儀式の最中にコロシが発生して、……という定番フウの展開を店ながらも、前半部はある人物の視点からこの事件の背景となる曰くをじっくり、ねっとりと描き出していくという結構ゆえ、正直にいえば前半を讀みとおすのはかなり辛いです。ただ、後半になって、いよいよ儀式が始まり、コロシが発生すると物語は急加速して、死体がごろごろと出てくるというメリハリをつけすぎた展開には吃驚ながら、この「連続」性にもシッリカと構図が隠されているというところは秀逸です。
本シリーズの見所ともいえるロジックに関していえば、今回は探偵自身も正直真相がよく見えていないというところから推理を始めるという趣向ゆえ、たとえば「首無し」に見られたような目が覚めるような見せ方をしているわけではなく、二転三転する真相の中から次第に事件のおぞましさが姿を現すという構成ゆえ、「首無し」のような明快さを求める読者はやや複雑な感想を抱かれるカモしれません。
旧作との関連でいえば、雨乞いの儀式に隠された謎があり、それが事件の鍵となるという趣向は「凶鳥」にも共通するものながら、あちらが完全にリアルを逸脱してアッチの世界へと突き拔けてしまった驚きを開陳してみせたのに比較すると、本作では怪異が物語に中心にはおらず、探偵以上に事件のすべて見通している黒幕が全体の構図を操っているというものゆえ、「凶鳥」に比べれば寧ろ表面上のホラー的趣向はやや希薄にも感じられます。
これは推理の端緒が儀式のトンデモない真相を開陳してみせるところから始まり、連続殺人の動機がそうしたアッチの世界の狂気を繙いたのち、中盤ではそうした怪異と狂気の裏返しともいえる「ずれ」が動機へと絡んでくるところからも感じられます。
そうした意味では推理を重ねて二転三転していくごとに、事件の構図は怪異を離れてより人間世界へと近接していくようにも見られるゆえ、推理のシーンにおける輪郭がやや判然としないようにも見られるのですが、このあたりは二転三転する推理の構成に焦点を合わせて愉しむか、あるいはそうした推理の反転によって開陳される構図そのものを堪能するかによって評価が分かれるような気もするのですが、いかがでしょう。
個人的には、中盤に明らかにされるコロシの主體客體の異様な転倒がステキに感じられ、ここにとある人物のさりげない台詞の真意も絡めて真相へといたる端緒が語られていくシーンが素晴らしいと思いました。
儀式の隠された謎に「凶鳥」的な趣向を取り入れる一方、現実世界とあちらの世界との対比でいえば、よりいっそう現実へと引き寄せた物語世界に「首無」とは対照的なロジックの見せ方で推理の混沌を提示した物語はホラー的な雰囲気はシリーズ中、一番薄いかな、と思わせておいて、その混沌を怪異溢れるクライマックスによって浄化してしまう幕引きが美しい。
実をいうと本作、前半部の描写と視点からとある人物に犯人を定めて推理をしていったのですが、探偵と同様のところを見落としていて、最後の犯人を当てることは出来ませんでした。というのも、前半部に刀城が書き出したある人物の視点に隠れるかたちでこれまたある人物のことが非常にさりげなく描かれているのですが、「はじめに」でもこれまたさりげなく言及されているこの視点の趣向を、真犯人が判った時点で読み返してみると、前半部の二人の視点の対比が、自分の読み方を誤導させる仕掛けになっていることに思い至るというあたりも含めて、技巧的には派手さもなく、推理のシーンもやや輪郭をボカした雰囲気にまとめているあたり、地味な印象を感じてしまうものの、個人的には、上にも中盤の推理シーンとその奇想だけでも十二分に愉しめた一作ゆえ、シリーズをずっと追いかけてたファンであればまず安心して手に取ることの出来る一冊といえるのではないでしょうか。