中年探偵に女子高生コンビのシリーズ最新作、――といっても、自分がこのシリーズに手を付けたのは前作「復讐者の棺」からなので、軽口を叩く女子高生とオッサンとの掛け合いがあればそれで十分ジャン、というほどにはまだ悟ることが出来てはいないものの、今回も「復讐者の棺」と同様、DNAに絡めた仕掛けに巧妙な「気付き」を添えた盤石推理で魅せてくれ、大いに堪能しました。
物語はジャケ帯の惹句にもある通り、絶海の孤島に住む双子の姉妹にいかにもな建物と、原理主義者が随喜を涙を流して喜びそうな舞台装置を添えているゆえ、ここから遺産相続を発端にジャカスカ人が殺されていくのかと思っているとさにあらず、コロシらしいコロシはひとつだけで、人死にという点に関していえば非常にアッサリしたものながら、後半に開陳される推理の流れが素晴らしい。
双子がいれば当然、その片割れを疑ってみるという定石を踏まえた上で、そこにDNAという縛りを添えて、大胆な伏線を読者の前に呈示してみせるという趣向が素晴らしく、フーダニットという点でいえば驚きは薄いとはいえ、本作の場合は、そうした定石を踏まえた上での真相開示とそこに到るまでの精緻なロジックを堪能するべき作品のような気がするのですが、如何でしょう。
推理の丁寧さは勿論ながら、まずその推理の端緒となる「気付き」、――特に猟奇的ともいえる死体の状況と、現場のブツの奇妙な消失という謎に絡めて、前半にいくつかの問題点を整理した上で、数々の疑問についてもしっかりとした解を呈示し得るロジックを、これまた大団円のかたちで見せていくという外連もいい。
「首鳴き鬼の島」では、前座と本丸という二人の探偵を配し、二つの推理から、犯人の思考プロセスと実際の犯行を重ねてみせるという推理の見せ方にうまさが見られたわけですが、本作でもこれに似たような推理の過程が採られています。
女子高生探偵が件の推理を披露するや、ある「事実」をもとにこの推理はアッサリと否定されてしまうのですが、そこでこの第一の推理が全て間違いであったというフウに完全否定されるのではなく、本丸ともいえる中年探偵の推理によって、この第一の推理の誤りが真犯人の思考をなぞったものであることが明らかにされるという見せ方が秀逸です。
すなわち犯人はある致命的な誤解をしていて、それが今回の犯行の引き金となっていたともいえるわけですが、推理を前段後段に分割しながら、第一の推理の誤りによって犯人の内心を暴き立て、第二の推理によってその誤解に基づいた悲劇の全容を明らかにするロジックの組み立て方には、一時大流行した多重解決とはまた違った趣が感じられます。
そういえば、まほろタンの「天帝のみぎわなる鳳翔」は、後の推理が前の推理の綻びを軌道修正しながらも、完全否定は行わないというもので、推理がさながら螺旋状に展開されていく様相であったし、安易な多重解決とはまた違った、――推理のシーンそのものにも愉しみどころを凝らした作品が今年は多かったような気がします。
さらに本作では、最後の推理によって、犯人と被害者に通底したあるものが明かされることで(210p)、犯人の誤解を引き起こすにいたったブツが事件の構図に見事にはめ込まれるという趣向もあり、まさに「仕掛けによって人間を描き出す」という現代本格の風格を十分に感じさせるものながら、こうした主題を敢えて前面に押し出すことなく、中年のオッサンと女子高生との会話の中でさらりと流してしまうというストイックさを「軽い」「薄い」と見るかは、やや評価の分かれるところカモしれません。
傑作「首鳴き鬼の島」、DNAネタにこだわりながらも、新たな仕掛けでしっかり愉しませてくれる一冊で、「首鳴き」のような重厚さは希薄ながら、それに通じる犯人の内心と推理の見せ方を構築してみせた逸品といえるのではないでしょうか。オススメ、でしょう。