メフィスト出身でありながら、おおよそメフィストらしくない輪渡氏のあやかし指南シリーズ第三弾。前作では百物語の「語り」そのものに絶妙な仕掛けを凝らした構成で見せてくれたのに比較すると、本作は非常にオーソドックスで、様々な逸話が最後に連關して一枚の構図を描き出すという構成は處女作に近く感じられるものの、本作ではそうした趣向の見せ方により洗練された雰囲気が感じられます。
物語は、一軒のお化け屋敷を中心に、盗賊に殺された子供たちや、その屋敷に現れる首が長い幽霊や女の幽霊など、このシリーズらしい怪談の風格を添えながら進んでいきます。やがて件の道場兄弟子がその屋敷で夜を明かすことになるも失踪してしまうのだが、果たしてこれはこの屋敷に巣くっている幽霊の仕業なのか、――という話。
盗賊のコロシという過去の事件に怪異を結びつけてさりげなく因縁話をにおわせつつ、最終的には怪異が探偵の推理によって見事に解体されてしまうという結構はいつも通りながら、今回は不思議なことに探偵左門があの屋敷はマジヤバイ、とハナっから怪異の存在を肯定してしまっており、それがまた最後の謎解きに絶妙な人情噺を添えています。
アマゾンなどのあらすじでは、兄弟子が幽霊屋敷で失踪、というのが本作の謎の中心のように語られているものの、この事件が發生するのは結構後半に入ってからでありまして、やはり本作の見所は、屋敷の曰くと実際に姿を見せるろくろっ首幽霊の姿の「差異」から事件の構図の端緒が語れていくところや、剣術家と一般人の違いから失踪に仕掛けられた罠の真相が明かされていくところなど、全編に鏤められたささやかな事件が徐々に繙かれながら、現在の怪異と過去の盗賊事件が連關されて、全体の構図を描き出すところでしょう。
――と書くと、件のタイトルにもなっている無縁塚っていうのはいったい何なのよ、ということになるわけですけども、これが脱力というか、何とも微笑ましいオチへと繋がっていて、思わず吹き出してしまいました。前作に比較して、いつになくこうしたユーモア、とはいかないまでも、思わずクスリとさせられてしまうネタや会話が盛り込まれているところも微笑ましく、ノッケから屋敷を見てくれと茂次に頼まれた甚十郎が、その屋敷というのが件の幽霊屋敷と知るやビビりまくるところや、最後の無縁塚に絡めたオチなど、ミステリとしては軽めながら、普通に小説としてこなれているところは好印象、――とはいえ、いかんせん地味といえば確かに地味で、同じメフィストでもまほろタンや大明神に比べるとトンガった作風ではないところから、今回はメフィスト作家の定型フォーマットともいえるノベルズからピースなる単行本へと装幀を変えてきたのかと推察されるものの、こうなると寧ろ講談社時代小説文庫あたりからリリースされた方が案外、多くの支持を得るのかもなア、なんて気がしてきました。
それでも敢えてメフィスト作家として、トンガったところを見せていくのであれば、やはり出てくるのが男ばかりという本シリーズならではの個性を生かして、ここは左門と甚十郎のやおい風味へと流れていくしか方法はないのか、……と考えてはみたものの、褌姿の汗まみれで左門と甚十郎が絡み合っているシーンをイメージするにつけ、これでは下手をすると腐女子の大好物である「やおい」というよりは「さぶ」とか「サムソン」とかのアッチ系になってしまうし、……と担当編集者の煩悶を勝手に妄想してしまうのでありました。
本格ミステリ的な趣向に怪談、チャンバラと小説としてもかなり美味しい要素が盛り込まれているシリーズゆえ、そうしたイロモノには流れずにこの実直さを維持していってもらいたい、ということで、次作も期待したいと思います。