第一部といいながらもそれなりに完結した物語だと期待して讀み進めていったら完全にアテが外れてしまってちょっと鬱、ですよ。
架空の都市を舞台とし、その都市のデザインには俎凄一郎なる謎の人物の存在を匂わせているところなど、シリーズものとしては大いに期待できるものの、本作の第一部を讀んだ限りでは完全に目がテンといった印象でありまして、ノッケから「あなたは死んだことがありますか」なんて、かつての探偵小説ではお決まりの台詞「あなたは人を殺したことがありますか」にも通じるヘンテコな言葉を添えたオープニングから一気に引き込まれてしまいます。
その後は「カオスコープ」以上に譯の分からない世界が展開されていくのですけど、靈柩車が消えるという都市伝説からして、連城氏の「暗色コメディ」かはたまた凌徹氏の「幽靈交叉點」かという魅力的な謎が提示され、その後もケーキ・バイキングの毒殺事件、ビルの間に挟まれた死んだ女と謎の大盤振る舞いは素晴らしい。
しかし「女囮捜査官」シリーズのように、謎がひとつの力を持って物語を牽引していくという風格ではなく、この不可解な都市を舞台にあちこちで突發的に事件が発生しているような印象が強く、終盤まで興味を引きつける力はやや弱いような気がしてしまうところがちょっとアレ。それでも山田ワールドの幻想小説的な風格がイッパイに押し出されているところは「サイコトパス」を髣髴とさせ自分好み。
登場人物たちがこれまた風変わりでヘンな人ばかりで、さらには狂言廻しにも見える法務省のある人物がまた一癖も二癖もありそうな人物で案の定、最後の最後ではアレになるし、前半から一番目立って物語世界を歩き回る人物がこれまたアレだったりと、とにかくアレ盡くしの結構は山田氏の小説を讀み慣れていない人にはマッタク受け付けない代物かもしれません。また全ての謎が解かれた譯ではなく、あくまで第一部ということなので、個人的には全てを讀了した後でないとこの作品の善し惡しは判断出来ないのではないかという気がします。
またある謎とそれに絡めた人物の相關は意外なかたちで最後の最後に開陳されるものの、これもまたこの都市の成り立ちそのものと大きく關わっているようでもあるし、……というかんじで、後半の展開もまた次回の伏線やもしれず、そう考えるとこの第一部だけを讀了したあとの何もといえないモヤモヤ感はいかんともしがたく、全てが揃った後にイッキ讀みすれば良かったとやや後悔。
それに山田氏といえばいくつものシリーズを途絶させたまま、またまた新しいシリーズを始めてしようという惡い癖があるゆえ、この創造士・俎凄一郎もまた第二部は一体いつリリースされるのかと考えると、やはり今讀んでおいた方がいいのかなア、……という気もするし、何とも複雜な気持ですよ。
これから讀まれる方は第一部でとりあえず完結することを期待せず、あくまでこの都市を舞台にした大きな図が作者の頭の中にあつて、本作はその中のごく一部を切り出したものに過ぎないということを頭に留めつつ、讀み始めた方が良いと思います。全編に漂う悪夢的な雰圍氣は當に山田ワールドのものだし、ミステリ的な結末を期待するのでなく、この「ずれ」を堪能するつもりであれば愉しめると思います。