御大參集、超絶靈界文士劇。丹波センセーッ!
作者の山村氏といえば、以前キワモノマニア的には完全にツボだった新芸術社リリースの「幻夢展示館」とか、ミステリ作家にも關わらずこのブログでは妙チキリンなものばかりを取り上げてしまっているので、今回はもう少しマトモなものを。
とはいっても映畫化もされた「湯殿山麓呪い村」とかだとあまりに當たり前過ぎて面白くないので、丹波御大の著書も參考にして自ら創造した霊界ワールドを舞台に奇天烈な連續殺人事件を描いた「霊界予告殺人」を今日は取り上げてみたいと思います。
この作品、霊界を舞台にしているとあって、乱歩や正史のみならず、大坪砂男とか大下宇陀児も登場するというところからして大滿足の一作なんですけど、キワモノマニアとしてはやはり全編に渡って作者のおじいさんテイストがビンビンに冴え渡っているところに大注目で、あとがきに目をやれば冒頭の一文が「最近はヤングの世代にも、霊界に対する関心が高まりつつあるようである」とあって、まず自分のような老人世代と對峙するジェネレーションの若者を「ヤング」といってしまうそのセンスからしてマル。
物語は作者とおぼしき雨宮という男が暴走族の車に跳ねられて御臨終、というところから始まるんですけど、この主人公を轢き殺してしまう暴走族の描寫というのも、
三台の縱列を組んで、いずれも真っ黒に塗りつぶした車体に死神のマークが白く描いてあり、前輪にも同じマークのついた三角旗がはためいている。ハンドルを握っているのは、揃いの白のヘルメットをかぶり、鮮やかな死神のマーク入りのTシャツにジーパン、茶色のワーク・ブーツという十七、十八の少年たちばかりであった。
何だか寿行センセもそうなんですけど、暴走族というと、どうにもメリケンテイストがまず第一に頭に思い浮かぶようで、ここでもあくまで死神に固執するヘルズ・エンジェルスな人物造詣も素晴らしいの一言。
で、この主人公というのは、社會派だの推理小説という名稱にはどうにも馴染めないミステリ作家で、處女作「真珠」も「作風そのものがイギリスのディクソン・カーばりの、オカルティズムと奇術的なトリックを組み合わせた怪奇本格を売り物にしていた」んですけど、五十路を過ぎた今となっては「どこの出版社からも原稿の依頼がなく、推理文壇からもいつしか忘れられた存在になってしまっ」た彼の仕事といえば「ジュニア雜誌に海外名作のダイジェストやミステリー・クイズを書いて、細々と生活の資を得ている有樣だった」。
デビュー當事はカーのような奇術トリックと怪奇趣味を組み合わせた作風で自分こそは本格の第一人者であるッとばかりに肩で風を切ってブイブイいわせていたのが一轉、中年に至ってからは原稿の依頼もなくてミステリー・クイズを書いている、という素晴らしいまでの凋落ぶり。
何だか某リアル作家の末路を想起させるようで相當にアレなんですけど、そんな彼は探偵小説專門誌をうたった新雜誌の女編集者と二回りも違う年の差など何のその、婚約までキメて取材旅行を名目に恐山へ婚前旅行をするまでの仲になったものの、結局、彼女は事故で御臨終。
しかし暴走族に跳ね殺された男は霊界で彼女と再會、來日していたコナン・ドイル、ヴァン・ダインが殺されるという不可解な殺人事件に卷き込まれることになるのだが、……という話。
ドイルは「緋色の研究」の見立てで殺され、ヴァン・ダインは「ベンスン殺人事件」の犯行現場そのままに殺害されるという異常事態に、大乱歩や正史もミステリ作家らしい推理を披露してみせたりとミステリとしての見所も多く、また霊界で幽霊を殺害するという異常な設定故に、犯行方法については正直何でもアリというかんじで、犯人は霊体をスーツケースに詰め込んで運んだだのという、奇矯な推理の展開も面白い。
個人的には半死に状態の主人公がこの霊界にやってきたことに絡めて、ドイルの殺害現場が何故密室だったのか、その理由が明らかにされるところに感心しました。犯行方法の奇天烈さに相反して、ホワイダニットに關するネタはなかなかツボをおさえたものに仕上がっているところもいい。
後半は二つの殺人事件の眞相が明かされ、本物のワルとの對決に雪崩れ込んだりするんですけど、この展開もドタバタっぽくハジケています。そして御約束とばかりに中年の主人公と事故で死に別れた戀人が人間界に帰還するという幕引きです。
マニア的には中盤に大乱歩や正史とともに大坪砂男とか城昌幸などが登場するところも見所のひとつなんでしょうけど、しかし海外からコナン・ドイルやクリスティを招待しておきながら、その御披露目會場に出された食事が「二重に重ねた中華弁当」というのはどうなんでしょう。せめてひとつ派手な宴席をもうけて、とかにならないのはそれだけ作者が日本の作家の吝嗇ぶりを描く為に敢えてこんなケチっぽい弁当で濟ませたのか、それともリアル世界でも作家の來日には中華弁当が定番なんでしょうか。
キッチュなキワモノっぷりにグフグフと忍び笑いをしながら讀むもよし、或いは懷かしの御大がズラリと參集した豪華キャストに喝采を挙げるか、はたまた奇天烈な物語世界に拵えたミステリ的構図にニンマリとするのもアリ、でしょう。