恐怖小説(敢えてホラーとはいわない)好きには有名な一册。とにかく内容が濃い。そして巷で傑作として知られている作品のほとんどを網羅しているところが凄い。
例えばもう説明不要ともいえる小松左京の「くだんのはは」。個人的には一番怖かった筒井康隆の「母子像」。更には曾野綾子「長い暗い冬」の全編に漂う不安感を煽るようなこの雰圍氣はどうだ。
またイヤ感という點では結城昌治の「孤独なカラス」が圖拔けている。カラスという少年の描写も薄氣味惡い。
「……刑事は少年の背後に近づいた。
荒々しい、少年の息遣いが聞こえた。一メートルあまりの青い紐の尖端を右手に握りしめて、それを、社殿の敷石へ力いっぱいに叩きつけていた。青い紐は激しく叩きつけられ、その度に、苦しそうに艶のある体をくねらせた。青大將の命が絶えて、ただ一本の彈力のある紐となって垂れたのは、それから直ぐだった。しかしそれでも、少年は叩きつける力をゆるめなかった」
句讀點の位置が絶妙というか、少年の狂氣がありありと眸に浮かんでくるような文章じゃありませんか。そして最後の一文、「そして意味の分からぬ笑いを、ニヤリと笑った。」という文章も良い。
「長い暗い冬」と「孤独なカラス」に共通しているのは、恐怖を煽るのに子供の、いいようのない薄氣味惡さが效いているということ。
そのほか、宇能鴻一郎の「甘美な牢獄」も印象深い作品。これも人間の狂氣の一面を描いたもので、舞台は臺灣。生島治郎の「頭の中の昏い唄」は何となく諸星大二郎あたりの漫畫を思わせる靜謐にして不思議な雰圍氣をカモしている作品。