言うまでもないんですけど、今月號の「野葡萄」に綾辻氏訪台の記事はありません(爆)。こちらの方は來月號の推理野葡萄で大々的に取り上げられるに違いないので、その時には是非ともこのブログでその内容を紹介してみたいと思います。
とはいえ、有栖川氏の訪台時と大きく異なるのは、台湾の作家、編集者、そして讀者を問わず積極的に自身のサイトでその感動を傳えてくれているところにありまして、こうして日本にいてもその熱気と昂奮が感じられます。海を越えてもリアルタイムで情報が手に入るとは本當にいい時代になったなア、と感無量ですよ。
さて恒例の、今月の推理野葡萄でありますが、興味深いのはやはり余心樂氏による「徳語小國的大規模活動――全民犯罪活動 / 余心樂」で、内容はというと、スイス在住の氏が、藍霄氏や既晴氏が立ち上げた「台湾推理俱樂部」の活動と比較しつつ、スイスのミステリ文壇の樣子を紹介するというもの。
日本から見ると、スイスのミステリってどうなんでしょう。自分はこの余心樂氏の文章を讀むまでまったく知らなかったんですけど、日本のプロ作家や評論家の方々の間ではイギリスやアメリカ、フランスなどと同樣、それなりの情報が共有出來ているんでしょうか。
まあ、教養主義を振りかざして他人を勉強不足と小馬鹿にするような「困ったちゃん」においては、スイスなどいうに及ばず、セネガルやチベットで書かれている「かも」しれない推理小説の内容の一字一句も精確に把握しているんでしょうけど。
だって情報を紙媒体やテレビラジオに頼るしかなかった昔ならいざ知らず、これだけ虚實入り亂れたデータの中から必要なものだけを取り出すことさえ困難を極める今日日、誰よりも自分の方が多くの情報を得ているなんて、自分などはとても口には出來ませんよ。
それに對して何の疑問を抱かずに他人を小馬鹿に出來るなんていうのは、餘程の誇大妄想家か、電波か、はたまた狂人か、いずれにしろマトモな人間だったらそのあたりは當然謙虚にならざを得ない譯で……というか、探偵小説研究会の方々もあんな毒電波など相手にするだけ時間の無駄、それだけの暇があったらもっとモット本業の方に勤しんでいただきたいなア、と、ただ面白いミステリを愉しみたいと考えている自分などはそんなふうに考えてしまうんですよねえ。
電波は一切無視、これが大人の対應でしょう。反論などせずとも、ミステリファンはどちらが正しいのか、もう十分に分かっていると思いますよ。
で、閑話休題、スイスや台湾におけるミステリ雄志たちの闊達な活動を知るにつけ飜って日本は、……なんて溜息が出てしまうんですけど一方、今年の島田御大はとにかくやる氣マンマンだし、芦辺氏や有栖川氏、綾辻氏は台湾ミステリ界との交流を積極的に推進、と「困ったちゃん」の「困った」騒動から目をそらせば日本のミステリもまだまだ十分にいけるのかもしれません。個人的にはプロは勿論のこと、アマチュアのミステリファンの間でも他國との交流がもっとモット深まれば、なんて夢を見てしまうんですけど、大御所の方々はこういうのは興味ないんでしょうかね。
さて、もう一つの話題は「容疑者Xの献身」が早くも台湾で出版、というもので、これ、台湾版の解説では今回の論争と「騒動」がどんなフウに言及されているのか自分は非常に興味があって、これを確認する「だけ」の爲に台湾版を取り寄せてみようかななんて考えていたんですけど、今月號の「野葡萄」に林依俐氏の手になる「由不屈的堅持所淬煉出奇蹟――東野圭吾」が掲載されていたので興味津々、で、早速讀んでみたんですけど。
結論からいうと、論争についても叉「騒動」についてもここではまったく言及なし、ですよ。まア、考えてみれば論争にしろ「騒動」にしろ作品の魅力とは一切關係のない代物で、そもそもが巽氏の反論によって「論争」という點では早々にケリがついている譯ですし、そのあとの「騒動」に到っては語るもバカバカしい話でありますから、これも當然といえば當然でしょう。
こんなクダラない文壇「騒動」に言葉を費やすよりは、過去作から本作に到るまでの東野ミステリの魅力を敷延した方が台湾のミステリファンには有益に違いなく、実際、この林氏の手になる解説は「如果・胃問我、東野圭吾是位什麼樣的作家?我會回答・胃、他是不幸的作家(もしあなたが私に「東野圭吾ってどんな作家なんですか?」と聞かれれば私はこう答えるだろう、「彼は不幸な作家です」と)」という些か奇を衒ったようにも見える書き出しから始まり、そこから東野氏が幾多の「不幸」の体驗を経て、「容疑者X」を發表、そして評價されるまでに到ったことまでを、氏の過去作にも言及しつつ見事に纏められています。でもこれも、何となく構成が島崎御大っぽいですよ。
「本格無理解者」しかその價値が分からない「容疑者X」が早々に海外で飜譯され、そして評價されている一方、「本格理解者」の手になる作品は、……というところで最近入手した台湾ミステリ関連の興味深いブツを紹介してみたいと思うんですけど、長くなりそうなのでこれについてはまた今度、ということで。という譯で以下次號。