アングラハリウッドのモンドフィルム。
二十一世紀本格的な要素が濃厚な作風で、大がかりな仕掛けこそないものの「魔神」系の御大の作品としては意表をつくトリックを凝らした本作、しかし實をいえばこの作品の最大の見所はヒロイン、レオナの濃厚に過ぎるエロシーンでありまして、「ねえねえ、ここだけの話、御大の作品で一番エロいの紹介して」なんてネクラマニアに質問を向けてみれば恐らく答えは二つに分かれると思うんですよ。
まず挙げたいのはいうまでもなく、御大の作品の中では女の悲哀系の極北をなし、リーゼントのゲス野郎にヒロイン道子が虐められまくる「涙流れるままに」、そしてもう一作はというと本作ではないでしょうか。
しかし同じエロでも「涙流れるままに」と本作「ハリウッド」ではその作風も大きく異なり、例えば「静子夫人の褌姿」とか「鴇色の長襦袢」なんて言葉にグフグフと忍び笑いをもらしてしまう和モノマニアには「涙」を、そして緊縛という言葉よりはボンテージなんて横文字にちょっぴりハイセンスな雰圍氣が感じられる方がいいッという方には本作を、ということになるでしょうかねえ。
という譯で、ネクラマニアとしてはどうしても全編に渡って展開されるレオナの八面六臂の大活躍、プラスエロっぽいシーンばかりに目がいってしまう譯ですが、これだけの長さでありながらケルト神話に最新のクローン技術なども交えて殆どホラーかSFといっていいくらいに突き拔けてしまった物語世界もまた大きな見所のひとつでありましょう。
第一章の「パトリシア・クローガー・ケース」も含めて章題のほとんどが横文字、さらに目次に至っては横書きと、それだけで日本のミステリというよりは何たが向こうのペーパーバックを髣髴とさせる本作、事件の舞台となるのも日本ではなくアメリカはハリウッド。とはいえ、御大がこの小説で描き出すのは、セレブなスターのハイソなライフなどで決してなく、ハリウッドの底邊で蠢くゲス野郎たちです。
向こうの警察の重要犯罪課の面々がハリウッドスター主演の殺人ビデオを上映しているところから始まるところも何やらハリウッドの映画的。で、このビデオに御出演いただいていたのがヒロインレオナの親友だったというところから、彼女は警察のデレデレ君と犯人を捕まえようと大活躍、という話。
レオナに近づいてきた記憶喪失の女や、彼女の戀人で英国からここアメリカにやってきたというケルトおたくの男の失踪事件、さらには子宮を拔きとるという猟奇殺人や事件の背後に暗躍する謎のシンジゲートなど、ハリウッド映画的なギミックが満載で、これだけの厚さ乍らまったく飽きさせない御大の筆捌きは流石です。
もっとも途中でケルト神話の蘊蓄が語られるところなど、若干冗長に流れるところもあるのですけど、そのあとにはシッカリとレオナのエロっぽいシーンを挿入するというサービスがあるのでご心配なく。
そんなサービスシーンを挙げてみますと、レオナの美しいシャワーシーンはいうに及ばず、自分の家に居候させている記憶喪失女とのレズシーンから始まり、自宅のリビングで女性のアソコを大映しにしたハードコアポルノの上映会を開催、「私、白人女性のあそこが好き。とても綺麗よ。観ていると気持がいいわ」なんていわせてみたりと、もうやりすぎとしかいいようのない過激シーンの連續に、グフグフと含み笑いを洩らしてしまうことは間違いなし。しかしここまで奇拔に過ぎるシーンの亂れ撃ちに、御大のファンである腐女子の方々はどのような感想を持たれたのか、ネクラの男性マニアとしては興味のあるところ、ですよねえ。
何しろ事件にはハリウッドのアングラ組織が絡んでおりますから、デレデレ刑事と行動を共にしているとはいえ、捜査には危険がつきものです。もっともこのデレデレ君はレオナの大ファン、そしてここはアメリカ。それでもこのデレデレ君、スキンシップは常識とばかりに、初対面でいきなりレオナの手の甲にキスをするというのはいくらなんでもやりすぎじゃないかなア、なんて思うんですけど、以後彼はレオナの從僕とばかりに付き從って彼女を危地から救い出す役所を見せてくれます。
もっともレオナが絶體絶命の危機に陥り、ここからトンデモなくエロっぽいシーンが始まるぞッという絶妙のタイミングでこいつが登場するものですからネクラマニアにしてみれば迷惑至極。レオナがアングラのポルノ男優であるデブ巨漢男に捕まって、後ろ手に手錠、口にはボールギャグを噛ませられ涎をダラダラと垂れ流して大悶絶、さあ、いよいよこのデブ男が包帯を取り出してレオナの体をグルグル巻きのボンテージ姿に仕上げるぞッ、て時に、このデレデレ君が「よーし、それまでだ」なんて拳銃を構えた格好で現れた時にはガッカリですよ。
せっかくこれからって時だったのにと思いつつ、「おい、エド(こいつの名前)、あんたヒーローぶるのはいいけど、先っきまでレオナがくわえていた涎まみれのボールギャグを証拠物件とか何とかいって自宅に持って帰るなよな。職権濫用だぞ」なんて恨み言のひとつもいってやりたくなろうってものですよ、ってまあ、登場人物へのむなしいツッコミはこれくらいにしておきますか。
そのほかにもレオナは、生足を見せつけながらストリッパー顏負けの妖艶シーンを演じてみせたりと、ラジー賞を獲得してホクホク顏のバーホーベン監督も鼻の下を伸ばして喜びそうな場面がテンコモリ。
しかし麻薬でラリってレズりまくり悶えまくりでありながら、實はこのエロっぽいシーンにも、事件の核心から讀者の目を反らすような書き方がされていて、このあたりは秀逸。そしてこれがまた最後にレオナの一言で明らかにされるという趣向もいい。
幻想的なエロシーンがミステリの仕掛けとしても素晴らしい効果を上げていた泡坂妻夫の「湖底のまつり」と同樣、濃厚なエロテイストを添えつつもそれが虚仮威しになっていないところなど、御大のミステリに對する心意気を大いに感じてしまったのでありました。
そして終盤、いよいよレオナは敵のアジトに潜入するのですが、ここで展開される悪夢の光景は完全にホラー。ここでもレオナは監禁されネクラマニアに對して放尿シーンを披露、さらに事件が集束したかに見えたラストでも泥まみれの女鬪美を見せてくれたりと、もうこれ以上やったら次は何があるんですかッとその過激に過ぎるサービスにネクラのマニアはグフグフと嬉しい悲鳴をあげてしまうのでありました。
しかし再讀してみて氣がついたんですけど、デレデレ刑事とソープオペラ風の掛け合い漫才をやっているときはいいとして、レオナがエロっぽい演技を始めるや頭の片隅に南波杏孃の姿がチラついてしまうのはいかんともしがたく(爆)、この作品、映画化するんだったらやっぱりレオナは杏孃しかいないんじゃないかなあ、と思ってしまうのでありました。というか日本にいますか、御大のミステリ魂に敬意を表しつつここまで過激なシーンを演じきることの出來る女優って、杏孃以外に。
という譯で、本作の魅力を御大フウに表現してみると、「ハリウッドはすべからくアメリカ社会の縮図であり、レオナの濃厚なエロティシズムが横溢した物語はなかなかに刺激的であった」とこんなかんじでしょうか。何だかエロシーンばかりを強調してしまいましたけど、「ザゼツキー」にも通じる死体の奇想と、「魔神」的な仕掛けは、「摩天楼」的な御大の王道的ともいえる作風とは異なるとはいえ讀みごたえは十二分。
エロを堪能しつつ、ミステリ的な趣向も満喫出來るというお得感が素晴らしい逸品です。レオナファンは必讀でしょう。ただし、自分がファンだった清純派アイドルがヘアヌード写真集を出しちゃった!TO BUY OR NOT TO BUY?みたいなアンビバレントな困惑を感じるやもしれぬので、そのあたりは御注意のほどを。