6月15日の二階堂氏の日記にまたまた見過ごせないことが書いてありまして曰く、今、台湾では日本の新本格が大人氣だというんですけど、そんなことはありませんよというのは以前ここで述べた通りです。
まあ、確かに、自分の書いた本、それも日本ではすでに絶版となってしまった人狼城が初めて海外で飜譯されたってことが嬉しくて嬉しくてもうタマラないという気持も分かりますよ。でもそれを理由に台湾ミステリの現状を歪曲して傳えてもいい、ってことにはなりませんよねえ。
台湾のみやびさんからの情報によると、何でも今年の秋には「容疑者Xの献身」が台湾で飜譯出版されるそうです(「ジャーロ No.24 2006 SUMMER 第6回「本格ミステリ大賞」選評ダイジェスト」を參照)。おや、二階堂氏によれば、今、台湾では日本の新本格が大人氣だというのに、氏の「聖域の殺戮」や「カーの復讐」をさしおいて、新本格の潮流からは大きく外れている「容疑者X」が早くも出版決定とはいったいどうなっているのかと(爆)。
とはいえ、「大人氣」なんていうのはもう、どうとでもいえる譯で、恐らく二階堂氏の頭の中では、今の台湾では日本の新本格が大ブームということになっていて、そうなると新本格のド眞ん中にいる私は當に台湾のミステリ界でも一大ブームを卷き起こしているに違いなく、まったく「人狼城」という歴史的大傑作を絶版にしてしまう日本のミステリ出版界の連中は何も分かってないのに對して海外のミステリファンは違うなあ、恐らくこのままいけば蘭子シリーズのあとは同じく日本では絶版となってしまった「ギガンテス」も飜譯されることは間違いないだろうし、これがもしベストセラーなんかになったりしたらどうしよう、台湾でサイン会を開催してみたら会場は蘭子のコスプレをした台湾の腐女子が詰めかけて大混乱、サイン会のあとはギガンテスシリーズの人氣を博して最近台北にオープンした「スペース喫茶ジゲバドギ」(スペースは宇宙にふりがな)でコアなファンたちとミステリ談議に花を咲かせて、窓の外にふと目をやれば、ザルルン人や増加博士の着ぐるみを纏ったファンたちがこちらを見ながら、「先生ッ!こっち向いてェ!」なんて黄色い声をあげている光景が目に浮かぶわい。グアォドバババアアァ!なんてことになっているんでしょうかねえ。
自分の経験によると、作家さんへの情報は少なくとも「台湾の出版社→日本の出版社の版権窓口→担当編集」の流れでやっとたどり着くモノで、(よくわかりませんが)二階堂氏も担当編集さんから聞いた情報を基づいて発言しているだけだと思います…伝言ゲームで趣旨が変わったり、台湾の出版社からの情報がもともと偏っていたりするかのもありますので、大目に見てやってください(^^)
新本格ミステリブームだとは言い難いですが、ここ二三年間は確かにミステリ「出版」ブームです…どこまで読まれ、どこまで浸透し、もしかしてただの一過性ですべてはいつかのドーナツブームのように消えていくのではと、今はまだなんとも言えません。しかし何人かの作家や編集者が、ずっと外側にある「ミステリ」を内側の文化として定着させるため、力をいれているのは確かです。いい結果になるように、力を添えながら祈っています。
ちなみに、「スペース喫茶ジゲバドギ」があれば本気で行きたいですが。
elielinさん、こんにちは。
小知堂文化の誰かが大ボラを吹いているか、日本の出版社の誰かが二階堂氏を鼓舞する為にこんなことをいっているかのどちらか、ですかねえ。
ただ疑問なのは、有栖川氏や芦辺氏といった本格ミステリ作家クラブの作家が訪台して、島崎御大にも會われて話をされているというのに、その内容が二階堂氏に全然傳わっていないということですよ。作家クラブの中で二階堂氏は孤立していて情報が共有されていないのか(爆)、とか思ってしまったのでありました。
最近の台湾ミステリの現状が未だ黎明期にあるのか、それともすでにその段階は過ぎているのか、色々と意見はあるかと思います。で、自分としては日本の探偵小説の歴史と台湾ミステリの現状を比較する意味で、色々と日本の昔の探偵小説を讀み返していたりする譯ですけど、かつての日本の探偵小説みたいに「何でもアリ」の状態となって、歴史的な傑作が台湾ミステリの中から生まれることを期待したいと思いますよ。
まあ、自分としてはすでにその兆候はあると思っています。このあたりは結構樂觀してますね。寧ろミステリを取り卷く現状は日本の方が危ないかもしれません。