闇斬り不意打ち。
「台湾ミステリを知る」第十四回となる今回は、以前にも紹介した「找頭的屍體」の作者、冷言氏の作品「風吹來的屍體」を取り上げてみたいと思います。
この作品も最近取り上げまくっている、明日便利書の中の一册に収録されているもので、これには表題作となる本作のほか、「空屋」も収録。「空屋」の方が実驗性が高くて自分好みなんですけど、本作も本格ミステリの路線を素直に踏襲した構成とはいえ、実は冷言氏らしい捻れ方と騙しの趣向を凝らした好編です。
事件の舞台となるのは台湾西南部にあるとある醫學大学で、おりしも台風が台湾を直撃した夜のこと、この大学の教學ビルと行政ビルという二つの建物が竝ぶところに学生が突き落とされて殺される。
事件の当夜、大学の演劇部の一行が建物に泊まりこみで練習を行っていて、殺されたのはその中の一人。飛び降り死體が見つかったということで、警察が呼ばれるのですが、ここで前回紹介した「找頭的屍體」でもパペット探偵を務めた女刑事梁羽冰が登場、本作は梁羽冰と探偵である歯科研修醫、葉正華シリーズの第一作という譯です。
このシリーズ第二作となる「找頭的屍體」では、二人の關係は当たり前のものとしてその背景も軽くスルーされていたんですけど、この二人、高校の同級生だったようです。更に偉大な刑事であった彼女の父親のこともさりげなく言及されていたりとこのシリーズを知るにはまず本作を讀んでおかないといけませんよ。
で、台風の為停電した時に事件が起きたとあって、現場に驅り出された梁羽冰は現場検証をするにも學校の怪談をあれこれと思い出してはガクガクブルブル、鬼上司に怒鳴られながら調査を行うものの、犯人に繋がる手懸かりはつかめない。二つのビルの間には大木が転がっていて、どうやら犯人はこれを使って嵐の中、建物の間を往来したと思われるが、その眞相は依然として不明。
一方、その夜、当直の葉正華には明日手術を行うという老婆の息子が訪ねてきます。母親との四方山話などを聞かされ男と別れたところで、葉は事件の捜査の為この大学にやってきていた羽冰と久方ぶりの再會を果たします。果たして事件の内容を彼女から聞きつけた葉は犯人が誰だか分かったという。
そして羽冰は彼に言われるまま、建物のあることを調べた後、皆を集めて彼から説明を受けたままの推理を披露するのだが、……。
この羽冰の推理が語られる後半、いかにも普通の推理手法で、ある人物が犯人だと明かされます。その人物は事件の時に宿直室に電話をかけていたりとアリバイもあるものの、そのトリックも容易に破ることが出來る。しかしこの人物が犯人ということで物語が終わる筈もありません。
そのあと、物語は再び探偵葉の場面へと移っていよいよ彼が犯人を告発するのですが、この登場人物の関係を隱蔽したまま不意打ちのように開陳される眞相には何とも吃驚、……といいたいところなんですけど、実は自分、この犯行方法は途中で見拔くことが出來ましたよ(爆)。
本作の場合、「找頭的屍體」とは異なり、女刑事羽冰が捜査を行っていく場面と、探偵葉の場面が交互に語られていくという趣向なのですが、ここに何かあるのではと、というかんじで作者のクセを知っていた為に、この仕掛けを見拔くことが出來たという次第でして、よくよく讀み返してみると、この犯行方法の証拠となるあるものも、非常にあからさまなかたちで呈示されています。
ただこれが示されるところがやや冗長な場面描写を伴って描かれているゆえ、自分のように作者のクセを知りつつ注意深く讀んでいる人には意外と簡単にこの仕掛けが分かってしまうかもしれません。
しかしここで試みられているあの種の仕掛けがよりいっそう洗練されたかたちで活されているのが、おそらくは冷言氏の次作となる長編大傑作「上帝禁區」でありまして、自分としては本作、この長編の習作と位置付けてみたのですが如何。
ジャケ裏の作者紹介を見ると、この「上帝禁區」は「第6屆皇冠大衆小説奨入圍複選作品」と書かれているんですけど、この大傑作長編も機会があれば是非ともここで紹介したいと思いますよ。この作品、いうなれば正史的世界觀と理念を台湾を舞台に現出させ、更に本作でも試みられたある仕掛けを更に洗練させつつそこにメタミステリ的な構成を用いて構築された本格ミステリなんですよ。
日本でも新本格以降、數々の正史的世界を導入したミステリ作品が生み出された譯ですが、自分としてはこの作品はその中でも最上の作品ではないかな、と思ってます。これも日本で紹介されたらかなりの衝撃だと思うんですけど、……無理ですかねえやはり。
こんにちは、薫と申します。
哲儀と冷言の知り合いなので、ここに載せたご感想を中国語に翻訳していますが、
勉強不足のため、うまくできませんでしたが、
やはり、どうしても、管理人さんの意思をちゃんと中国語で伝いたいのです。
恥ずかしいが、もし、よかったら、翻訳文を直していただけませんか。
突然、こういう要求を出すなんて、申し訳ございません。
薫さん、こんにちは。
ここには中國語にするほど大したことは書いていないんですけど(爆)、
とりあえずメールいただけますか。宜しく御願い致します。