薄っぺらなリアルを正確トレース。
小學生が損壊した遺體を屋上からブチ撒ける、というあらすじの凄さに惹かれて思わず購入、……だったんですけど、期待していたようなシーンはあっさりと流して、寧ろネットを中心とした現代の混沌を描いた話でありました。
物語は「序、」と題したプロローグから始まるのですが、クラスで飼育していたハムスターを死なせてしまった児童たちが担任と思しき教師から叱られている場面が何ともイヤーな感じを釀し出しています。
作者としてはこの描写の最後、物語の鍵となる少女「獣使い」こと珠紀の言葉を添えることによって、少女を異樣さを際だたせるつもりだったんでしょうけど、自分としては寧ろこの担任教師の狂いっぷりの方が數段怖かったですよ。
物語はこの後、九年前の事件を髣髴とさせる死体損壊事件が発生し、それを追う警察、科警研の女性、そして事件を報道するアナウンサーのナレーションがカットバット風に交錯しながら進みます。
話の展開としては、九年前の事件の中心にいた「獣使い」と呼ばれる女性と、彼女がいう「獣」の正体を探りつつ、今回の事件の背後にある眞相を追いかけるという構成になっているのですけど、どうにも話にノれなかったのは、やはりこのカットバック風に事象を羅列していくだけの文章がたどたどしい故だったんでしょうかねえ。
死体損壊事件の犯人や、その背後にある眞相は現代風。そこにネットが絡んでいて、というあたりはいいのですけど、途中に挿入されるネットの書き込み文章なども迫力はあるものの、ある意味、薄っぺらいリアルをなぞっているだけのように感じられてしまうところが何とも。勿論、ここで感じてしまう薄っぺらさというのは、薄っぺらな現実をなぞった故の結果であって、この物語自體に深みがないという譯でないことは分かっています。分かってはいるんですけどねえ……。
警察と科警研との確執や、やたらとプロファイリングを持ち出しては虚假威しをキメているあたりが「多重人格探偵サイコ」を髣髴とさせるものの、あちらはしっかりグロを添えての扇情的な仕掛けもテンコモリ。飜ってこちらはというと、薄っぺらい集團の勢いが薄っぺらい恐怖を生み出して物語は薄っぺらい結末に向かって集束するというかんじで、どうにも深みが足りないような氣がするんですよねえ。
ただ何度も繰り返してしまうのですが、これは作者の上手いヘタとは關係なくて、この薄っぺらいリアルを素材に添えた故の必然的な結果なのだと思います。それでもこの素材を選んだのは作者自身な譯で、その意図や如何に、というふうに考えてしまうのでありました。まあ、本作、自分が讀むような物語ではなかった、ということでしょうかねえ。