ノベライズ版とはいえ、いつも通りの展開ですよ。
要するに女の子の幽霊がボワーっと出て來て「ダメっ!ダメっ!」「いやっ!いやーっ!」とヒロインが絶叫し、狂った男がシャイニングのニコルソンっぽい雰囲気で目をギラギラさせながら庖丁を振り回し、8ミリカメラのフィルムの回る音がカシャカシャカシャカシャカシャカシャ……と薄闇に響き渡ると、御約束の「あわわわわわっ……あわわわわわっ……」となるお話です。
とにかく今までの大石圭ファンの期待も裏切らない、いつも乍らの内容といいつつも、本作では後半のキ印男の暴走が凄まじく、いつになく冷静さを失った破綻すれすれの構成が何だか大石センセらしくありません。それでいて「アンダー・ユアベット」を髣髴とさせるアレ系の仕掛けが後半にさりげなく用意されていたりして、昔からのファンはニンマリでしょう。
物語は昭和45年、群馬縣のホテルで起きた大量殺人事件の犯人、キ印男大森範久の描写からなる過去編と、その事件の現場となったホテルで映畫を撮影しちゃいましょうとバチ當たりな計畫をブチ上げた監督や、その映畫に出演するヒロインたちの描写からなる現代編の二つが併行して語られます。章の冒頭に輪廻転生にまつわるトンデモエピソードが添えられているのもこれまた大石センセの作品では御約束でしょう。
群馬縣ホテルの大量殺人事件の犯人大森というのが法醫學教授でありまして、自分の娘が昔に亡くなった妹の転生だと信じ込んでしまったこのキ印男の、次第次第にハメを外していくさまがネチネチと描かれます。この輪廻転生が証明されればノーベル賞も夢ではないッ、なんて狂った妄想で頭の中をイッパイにしてまず取りかかったのがヌードマウスの大量購入。これで何をおッ始めるかと思いきや、キーキー暴れる鼠の尻に次々と燒き印を入れていき、あとは床にグチャッと叩きつけては殺しまくります。
これで仕込みは完璧とばかりに今度は実驗鼠を扱っている業者に突撃の電アポを繰り返して、尻に燒き印めいた痣のあるマウスを見つけたら連絡よろしくッと告げおくと、殺しまくりの実驗から二ヶ月ほどして、業者から尻に燒き印っぽい痣のある鼠が生まれたとの電話をもらうやすっ飛んでいきます。で、燒き印鼠を百匹殺して、二匹のそれらしい鼠が生まれたとキ印男は大興奮。そして次の実驗は何としても人間で、とはりきった結果が件の群馬ホテルでの大量殺人事件、という譯です。
で、殺しの準備を着々と行っていくキ印男のワンマンショーをじわりじわりと描きつつ、現代編では、大量殺人事件で殺された被害者の生まれ變わりと思しき人間たちがさながら吸い寄せられるようにと映畫の撮影舞台に集まってくる。
出演俳優たちは皆、夢で事件の現場と思しきホテルを見たり、地下鐵で被害者の少女と思しき幽霊を目撃したりと、呪怨テイストっぽい雰囲気で現代編もゾワゾワと盛り上げていきます。
やがて現場のホテルで撮影が始まるのですが、監督はさながら犯人のキ印男が憑依したかのごとく撮影にのめり込んでいき、現場では樣々な怪異が出現していくのですが、果たして過去編でキ印男の殺戮大會が開催されると、殺人シーンに併せて現代編でも転生したと見られる登場人物たちが次々とトンデモない目にあっていきます。果たしてキ印男はどのようにしてこの現代に蘇るのか、というところがミソでして、この仕掛けはなかなかですよ。
過去編で正常だった法醫學者の男が輪廻の研究に取り憑かれて、さながら坂道を轉げ落ちるかのように狂っていく描写は素晴らしく、大石ワールドではお馴染みのドメスティック・ヴァイオレンス男へと華麗なる変貌を遂げていくところがいい。
前半にはシッカリと「いやっ!いやーっ!」とお馴染みの台詞も収録されているし、後半には「あわわわっ……あわわわわわっ……」も用意されています。當に詳細なディテールの部分でもファンの期待も決して裏切らない大石センセの筆捌きも冴え渡り、後半の鏖スペシャルも見逃せません。
大石ファンだったら勿論マストでしょう。また清水監督の映畫が氣になる御方は、今月號の映画秘宝の特集記事を参照されると更に愉しめるかもしれません。アルジェント監督の「サスペリア2」で凄まじいインパクトを我々ホラーファンに与えてくれた、例の出っ齒人形に着想を得てビルドされたという「リリィちゃん」のオフショットも収録されているので、この記事に目を通されたあと本作に取りかかると、色々とイメージしながらより大石センセのハチャメチャワールドを堪能出來るかもしれませんよ。