ケンソーの代表作といえば、本作と「夢の丘」、そして最新作の「天鳶絨症綺譚」ということになるでしょうか。傑作アルバムを出しても出してもファンは必ずこのセカンドと比較してしまうという、或る意味ケンソーにとっては非常に因果なアルバムともいえます。最もそれだけの歴史的傑作であるという譯で、まず最初にケンソー入門としてお薦めするとなると、やはり本作セカンドということになりますよねえ。
実をいうと自分が一番最初に聽いたケンソーのアルバムは「KENSO(3rd)」で、これは初めて購入したCDでもありました。その後にLPで「SELF PORTRAIT」(自主制作時代のベスト盤)を手に入れて、歴史的名曲「空に光る」を聽くに及び、その素晴らしさと衝撃に全身が震えてしまったのというのも昔の話。當事はファーストも、そして本作セカンドも絶盤という状況でありまして、「空に光る」を聽くことが出來たのはLPの「SELF PORTRAIT」だけだったんですよ。
しかしあのLPを通して「空に光る」と出會えたのは幸せだったと思っています。「SELF PORTRAIT」の、曙光が照らす海の彼方を描いた鮮烈なジャケットは當に「空に光る」を一聽した時に感じられた情景をそのまま描いたかのようで、當事はこのアルバム、テープに落としては狂ったように聽きまくったものでありました。
と思い出話はこれくらいして、本作セカンドなんですが、この時代のケンソーに顯著なのは、親しみやすい和旋律を巧みにアレンジしたその曲風でしょう。その典型が本作の一曲目、「空に光る」。もうこの曲に關しては問答無用、イギリス、イタリアの洋モノしか受け付けないという偏狹なプログレマニアをもねじ伏せてしまうほどの説得力。冒頭の祭囃子のようなハイテンションのギターから、流れるようなフルート、そしてそれらを盛り上げていく正確無比のドラムが奏でる躍動感。このリズム感は和プログレでしか表現しえない、當に和の音でありましょう。
この和旋律の美しさをより一層際だたせて、靜的な世界觀を表現したのが「氷島」で、棚引く風のようなフルートの旋律と、夢見るようなピアノが釀し出す美しさには言葉さえ失ってしまいます。いや大袈裟じゃなくて。ブログレ云々という前に、歌心に溢れた旋律にじっと耳を傾けてみたい名曲です。
和旋律の雙璧がこの二曲であるとすれば、二つのパートに分かれた「麻酔」や「ブランド指向」は當に變拍子と流れるようなリズムの奔流が心地よい、これまたケンソーのもう一つの一面を表した傑作でしょう。
「麻酔」のパート1は心地よく流れるギターと中盤に入るハーモニクスが夢の中へと沈んでいくかのようで、今聽いてみると何処となくスティーブ・ライヒを髣髴とさせるミニマルっぽい雰囲気がありますねえ。續くパート2は靜かに立ち上ってくるキーボードとともにリズムが踊り出す前半から、ギターとハモンドが呼吸を併せて展開される中盤が拔群にいい。
「ブランド指向」は表に出ているキーボードに耳がいってしまいがちですが、実はその裏でトンデモないことをやっているドラムにも注目したいところです。
「はるかなる地へ」はシンバルがフェイドインしてくるところから始まり、その後の流れるギターとキーボードの絡み合いは、今のケンソーと比較すると非常にシンプルで親しみやすいメロディです。カンタベリーっぽいノリを殘しつつ混沌とした雰囲気で進む中盤からの展開が尻切れ蜻蛉で終わってしまうところが殘念といえば殘念です。
續く「内部への月影」はタイトル通りの神祕的なキーボードの音が雰囲気を出している佳曲。女聲が入っているところも本作に収録されている曲の中では異色でしょう。
そして最後の曲は「さよならプログレ」。その挑發的なタイトルに反して、その躍動的なリズムで最後まで突き進む展開は、當に「空に光る」と表裏の成り立ちを思わせるこれまた名曲。
このセカンド、自分は二枚を所有しておりまして、一枚は93年にリリースされたキングレコード盤。こちらの方はボーナストラックとして「日本の麦唄」、「陰影の笛」、「海」のライブが収録されています。ただ缺点は音が悪いことでありまして、これは自主製作盤の内容をそのままおこしたものですから仕方がないのでしょう。
現在であれば、やはりリマスターを施された紙ジャケ盤ということになりますかねえ。こちらは「power of the gloly」と「Four holes in the groud」のライブがボーナストラックとして収められています。音は格段にこちらの方がいいです。
今のケンソーにはない瑞々しさに滿ちた名曲の數々が収録された本作、和プログレのファンには勿論マストでしょうけど、寧ろ洋モノばかりで、和もののプロクレはダサいし、……なんてかんじで敬遠している方々に是非とも聽いてほしいアルバムです。イタリアやフランスのマニアなアルバムでは決して聽くことの出來ない、和ものならではの素晴らしい旋律に壓倒されること間違いなしの名盤です。超おすすめ。