ダメだ、完全にハマってしまいましたよ。
やはりシリーズものは順番に讀んだ方がと思いまして、「完全犯罪に猫は何匹必要か?」を手に入れることが出來るまではとっておこうと思っていたんですけど、もう十二月だし、ということで結局讀んでしまいました。そして見事にハマってしまったと。
前作に比較して、クスクス笑いを催す破滅的ギャグは益々その強度を増していて、もう當社比30パーセント増、というかんじですよ。見開き二頁には必ずギャグが入っているんじゃないかというくらいの凄まじさで、鵜飼と朱美の夫婦萬才フウのやりとりも冒頭から飛ばしまくっているし、成り行きが氣になる流平とさくらの二人も最高に笑えるというのに、今回はここにさくらを上回る強力な女性キャラが登場して、もう作者のやりすぎぶりは留まるところを知りません。
今回はこの作者にしては珍しく一人稱のプロローグから始まります。誰かに尾行されていることに氣がついた「わたし」がパチンコ屋に入ると、男が交換殺人の話を持ちかけてくる、……という思わせぶりなところでプロローグが終わり、次の「発端の部」に入ります。ここから鵜飼と朱美の夫婦萬才が始まっておりまして、もう、電車の中で讀んでいて笑いを抑えるのに苦勞しましたよ。だから、ギャグ、やりすぎですって。
自分の夫の浮気を探ってもらいたいという話を咲子という夫人が鵜飼のところに持ってくるところから、物語は鵜飼朱美のコンビが咲子夫人の邸宅にお手伝いを裝って潜入し、夫と女子大生との浮気に探りをいれるというパートと、流平とさくらの二人がさくらの友達の家を訪ねていく場面の二つが併行して進んでいきます。
その間にさりげなく刑事の場面が入ってきて、そこではプロローグの中で言及されていた交換殺人を思わせる殺人事件が発生するのですが、まさか東川氏がこういう仕掛けを出してくるとはまったく予想していなかったので、後半の「夜明けの部」で、鵜飼朱美の場面と流平さくらの二つの場面が繋がった時には腰を抜かしてしまいました。いや、まったくこのテを出してくるとは考えてもいなかったので。もう、既讀の方にはいうまでもありませんよねえ。こういうのは大好きなもので自分は。
事件の眞相にも呆れましたが、その推理が開陳される場面でもシッカリと笑いをとろうとする作者の貪欲なまでの姿勢には驚きを通り越して呆れてしまいました。東川氏、そこまでやりますかッ。
とにかく今回は探偵鵜飼も完全に脇役で、主役をつとめるのは女優の水樹彩子でありましょう。もう最高です。本作、ギャグも増量されていますが、この女性キャラの立ち方も尋常ではありません。何しろ、この女性、全編にわたって「大活躍」ですからねえ。
しかし眞相が明らかになって事件が解決した後、この水樹彩子は烏賊川市を去ってしまうのですが、次作には登場しないのでしょうか。これだけキャラ立ちした人物を一作だけで退場させてしまうとは到底考えられませんが、次作での活躍を大いに期待したいと思います。もっとも彼女が暴れまくったら鵜飼の出番がなくなってしまうかもしれまんが、それはそれ、でしょう。
自分好みの仕掛けといい、いつもながらの伏線の張り方、そして異常なまでのキャラの立ち具合、やりすぎ感のあるギャグセンスといい、現時點において氏の作風はここに極まったと考えても良いのではないでしょうか。物語の進め方は勿論、場面の転がし方などのディテールも含めて非常に映畫的だな、と感じました。このギャグと正統派のミステリセンスの融合という點においては、完全に泡坂妻夫を超えてますよ。
今回の場合、仕掛けが仕掛けなので、伏線と推理という點では前作に比較して若干弱い氣がしない譯でもないのですが、この眞相の驚きだけでそんなところは消し飛んでしまいましたよ。
しかし本作なんて三谷幸喜あたりが映畫化したら絶對に面白いものになりそうなんですけど、ネタがアレなんでそれも叶わないというジレンマが何とも堪りません。
こりゃあ、「館島」も絶對に讀まないといけませんねえ。もうこうなったら「猫」も含めて全册讀みますよ。このギャグと正統派の香りのするミステリセンスはやみつきになります。泡坂ファンは勿論のこと、キャラ立ちもしてユーモアもあって、それでいて正統派のミステリの枠組みを逸脱していないものを、なんて贅澤な作品を所望の方に是非ともおすすめしたい傑作です。
東川篤哉「交換殺人には向かない夜」
本日ご紹介するミステリーは、東川篤哉さんの「交換殺人には向かない夜」です。
●あらすじ鵜飼探偵事務所に、依頼人の女性が現れた。十条寺家から紹介されたという善通寺咲子に、夫である善通寺春彦の浮気調査を依頼された鵜飼探偵は、ビルオーナーの朱美と共に、彼女?..