このシリーズも既に五巻目。本卷は「遠い未来の中学校へご招待!」というジャケ帯の煽り文句とは裏腹に今讀むとチープ感が妙に笑える表題作「未来学園」、「妖怪紳士」を髣髴とさせるハチャメチャ活劇物の「ロボットDとぼくの冒険」という二中編を収録。さらに「宇宙からきた吸血鬼」や「くるった時間」などさりげなくトラウマテイストを織り交ぜた掌編を收めた作品集となっています。
まず最初は「未来学園」ですが、これは第一話から第十一話と最終話、さらには豐田有恒との合作である最終話「不時着1965」の全部で十三編からなる物語です。それぞれが一話完結となっているので、さくさくと讀めてしまう譯ですが、全編のあらすじを簡單に纏めると、マリとクニオがいる學校、未来学園で樣々な騒動が卷き起こり、時にはミステリ風の推理劇をとりまぜつつ事件を解決していくというものです。
未来、といってもそこは六十年代から見た未来でありますから、今からすると妙にチープ感を感じさせるのも仕方がありません。寧ろ、このチープ感をキッチュだと思えるくらいの広い心でここは作者の織りなす物語を堪能したいところですよ。
上にも書いたように学園で樣々な事件が起こるのですが、そこに微妙にトラウマテイストを盛り込んでいるのが見所でして、例えば最初の「マイナス人間」では、紙をしわくちゃにしたような醜怪な男が壁からぬっと飛び出してきてマリを驚かせたりするし、第五話の「はにかみ屋の宇宙人」では、手にみずかきのある蛙人間(何かこれ、多くないですか)が登場したりします。この第五話は最後のオチもうまく決まっていて、宇宙人ではなくて普通の人間だという推理を展開しておいて実は、……と終わり方が心憎い。
そのほか第六話「小犬は小犬」や「ゆうれい音響」では少年少女にさりげなく教訓を説いたり、第七話「手紙を書くには」では純粋にミステリとして見てもなかなかよく出來ています。全体的には手堅く纏めてあって惡くはないんですけど、あまりハジけていないところが自分的にはちょっと不満、ですかねえ。
續く「スター・パトロール」は宇宙からやってきたスター・パトロールのメルと正夫少年の物語で、テイストは「妖怪紳士」に近いです。第一話「とうめい怪獸」で正夫少年たちが立ち向かう敵は、宇宙からやってきたゼルガという怪物で、こいつが幽霊みたいに人間に憑依しては惡さをしまくる譯ですが、自動車を爆発させるわ、自衞隊まで卷き込んで米軍基地を襲撃しようとするわ、やることが妙に人間臭いんですよ。
地球を支配するならもう少し考えろよ、とツッコミたくなるんですけど、軍隊を出撃させて話を大きくさせるという展開や、正夫少年がゼルガに取り憑かれてテンヤワンヤになってしまうというのは御約束でしょう。
第二話の「ゆうれい光線」も、ジェット機は落ちるわ、船は空中に浮かぶわと、冒頭から飛ばしています。で、敵は宇宙のギャングみたいな連中だろうとアタリをつけるのですが実は、というお話です。これもドンデン返しなども交えてテンポよく展開します。
このあとは「宇宙からきた吸血鬼」などの掌編がいくつか續くのですが、これがなかなかいい。「宇宙からきた吸血鬼」は、雨のなか道に迷った父と子供が怪しげな洋館を訪ねていき、……とくれば、この館にトンデモない怪物がいて、と思うじゃないですか。タイトルが吸血鬼とくれば、その怪しい輩というのは吸血鬼に違いなく、と思っていると見事に騙されます。確かに胡散臭げな男が登場するのですが、こいつは吸血鬼ではなく、本當の吸血鬼は、……というオチが見事。これはかなり好きですねえ。
そのほかでは「恐怖の銀色めがね」が光っています。小學生の家庭教師が見つけた眼鏡は人間のなかに混じっている宇宙人を寫し出す特殊眼鏡だった!というゼイリブ的な話かと思わせておいて、これまた最後のオチが效いています。
「暗い鏡」もちょっとゾッとする話。別莊にやってきて父と母と待っている姉とぼくの二人。その別荘の鏡には毎晩、不氣味な女の幽霊が寫し出されるのだが、その幽霊の正体は、……という話。最後にこの鏡が寫し出していたものの正体が分かり、その女性の正体も判明するのですが、果たしてこの別莊で何がどういうふうに起こる筈だったのかが一切明らかにされないオチが怖い。恐怖小説としてもかなり上等な部類に入るのではないでしょうかねえ。
「ロボットDとぼくの冒険」は、學校に行く途中でパラレル・ワールドに迷い込んでしまったぼくが(またですかッ)、探偵ロボットアール・ディ・ロンと一緒に、策略を巡らせてぼくをこの世界へと引き込んでしまったドクター・ゼロに立ち向かっていくという物語。パラレル・ワールドだと思わせておいて実は、……というのは「妖怪紳士」に収録されていた「ぼくボクとぼく」と同じなんですが、やっていることがハチャメチャ。後半はこのパラレルワールドが実は、という、ここでもまたこれですかッと都筑センセにツッコミを入れたくなる眞相が明らかになったかと思いきや、そこからはもう何が何だか、という展開で唐突に終わってしまう作品。物語にはいくつもの起伏があるのも少年小説では御約束でしょう。
全体的に、「妖怪紳士」ほどハジけまくっていず、少しばかり大人っぽく纏めすぎかな、とも思うんですが、既にこのシリーズを第一巻から讀まれている奇特な方にはやはりマストでしょう。