日本が世界に誇るプログレギターバンド、……っていっても普通にヒットチャートだけを追いかけている若者には「そんなの知らねえ」の一言で一蹴されてしまいそうなんですけど、自分が持っているのはムゼア盤。フランス盤ですよ、日本のアーティストなのに。更にセカンドアルバムの方はムゼア盤の方が先にリリースされていて、日本盤はまだ出ていないというていたらく。いったいどうなっているんだか、ってかんじですよ。
ムゼアからアルバムをリリースしている和プログレのアーティストとしてはおおよそムゼアの音らしくないのが荘園の良いところでありまして、何というか七十年代日本ロックの恰好良さを濃厚に殘しつつも、全曲が最近のロックらしい突き拔け方を見せているところがいい。
ボーカル不在の純然たるギターインストアルバムなんですが、本作の場合、ギターがボーカルの代役をシッカリと務めておりまして、とにかく歌う歌う、ギターが歌いまくっているのです。
最初の「INTRO」は爪彈かれるギターのアルペジオから嚴かに始まります。ジャケを思わせる靜かな闇からしずしずと立ち上ってくるギターの無類の美しさにうっとりしていると、二曲目「REALLUSION」の、ヌーヴォメタル・クリムゾン風なリフで雰囲気は一轉します。主役がギターであるのは勿論ですが、その脇をしめるベースとドラムの正確無比なリズムの素晴らしさも無視出來ません。
トリオという編成ですから、懲りまくったアレンジよりも、曲構成にも引き算を使うアレンジが際だっています。音の隙間を巧みに活かした演奏が全編にわたって展開される譯ですが、それ故に完璧なリズムと歌うギターとの組合せがいっそう際だっています。
これは次の曲「PARADE」で明らかで、當にタイトル通り、ファンファーレのような明るい旋律が繰り返される單純な曲構成乍ら、隨所に效かせたフックが素晴らしいアクセントを生み出しています。
續く「LUCIFER’S CHILD」は不吉なギター音の重なりがフェイドインしてくるところから始まり、ワウっぽいギターが歌う歌う。どの曲もそうなんですけど、ギターインストといいながら、ギターソロっぽい展開は少なく、全編見事なアンサンブルが光るところがこのバンドの風格でしょう。
「NETWORK BROKEN」も冒頭の恰好いい出だしからロックらしい展開を見せる曲。中盤のうねくるベースソロからギターソロへと移行する構成など、プログレというよりは正統派をゆくハードロック。
「不吉な足音 II (OMINOUS FOOTSTEPS 2)」はパルスのような重々しいベース音から始まる曲で、同じリフが執拗に繰り返されるところが怖い。
「乱(RAN)」は何処か中盤の展開に和テイストを感じてしまうのは自分だけでしょうか。激しい展開にプログレ魂を見せつけてくれる曲。
「ASELS」は5部からなる組曲で、當に荘園の構成力とアンサンブルの巧みさを見せつけてくれる名曲でしょう。「INTRO」と同樣、美しいギターのアルペジオが印象的な「1」、重苦しく繰り返される旋律と安定したリズムの上で歌いまくるギターが素晴らしい「2」、再び靜かで嚴かな旋律が印象的な「3」、吹き拔ける風のように爽やかなギターの音が恰好いい「4」、そして再び「靜」へと回歸して躍動的な盛り上がりを見せる「5」、緩急と動靜、そして巧みにメリハリをつけた構成に一流の風格を感じさせる當に名曲。
「MOVE UP」は一直線に進むリズムに合わせて歌うギターが、プログレというよりはハードロックぽいですねえ。
「TIME AND SPACE」では「INTRO」における冒頭の主題が高らかに再現されます。とにかく歌いまくるギターと完璧なリズムに陶酔してしまう。
最後の「風雅(FU-GA)」で「TIME AND SPACE」の素晴らしい餘韻を殘しつつ、ライブでのアンコールみたいな雰囲気で盛り上がり、アルバムは終わります。
ジャケ裏のコメントを見ると、本作は一つの物語をもって構成されているとのことなんですけど、確かにアルバム一枚を聽き通してみると、何か大きな旅を終えたような充足感が感じられます。これは例えばラッシュの「神々の戰い」とか、曲風は大きく異なるものの、マイク・オールドフィールドの「アマロック」を聽き終えたときの感覺に近いですねえ、自分的には。
ボーカルもないし、凝りに凝りまくった變拍子こそ多くないものの、ロックに向き合う志の高さという點で、ラッシュに近いものを感じるのですが如何でしょう。ローカル色が強い和プログレとは風格を大きく異にする堂々たる傑作でしょう。おすすめ。