もう最高、です。
前作「1303号室」の後半、恐怖のヒロイン幸世のパートでも大胆にフィーチャーされていた死体ネタで長編一本を仕上げてしまいましたッ、っていうのが本作です。
物語の主人公は童貞の引きこもり。死に場所を探してさまよっているところで出會した集團自殺の現場で、彼は女子高生の死体を見つけてしまいます。そしてビビりながらも、結局その死体を大磯(また湘南が舞台!)の自宅に持ち歸り、ベットに横たえた美しい少女の死体をとっくりと眺めているうちに頭のなかの妄想が爆発して、ついにはあんなこともこんなこともしてしまい、そして……と物語のあらすじを簡単に纏めるとこんなかんじでしょうか。
當然死体は数日も經てばグスグスに腐ってきますから、どうにかしないといけません。この「どうしよう、どうしよう」という状態で物語の後半をグイグイと引っ張ってみせたのが前作「1303号室」だった譯ですが、本作ではこのあたりが妙にあっさりしています。
彼はどうにか死体を庭の樹の下に埋めるのですが、死体嗜好に目覺めてしまったからにはもうどうにも止まらない止められないとばかりに、今度は自分から積極的に自殺サイトへアクセスして、獲物を探し……。
後半は「アンダー・ユアベッド」みたいなエグいけど切ない展開になるのかと思いきや、流石スタイリッシュな鬼畜系で獨走する今の大石圭にそんな人情噺は似合わないとばかりに物語はイヤな方向へイヤーな方向へと転がっていきます。
本作は人物造形に見所もあり、また引きつけられるシーンも盛りだくさんで、角川ホラー文庫の諸作ともまた違った味がいいんですよ。マンデリンこそ登場しないものの、主人公の引きこもりが女子高生の美しい死体を前に感極まって「ああっ!」と叫んでしまうシーンは「湘南人肉医」のアノ場面を髣髴とさせますし、御約束の「あわわわっ」も今回はバッチリ収録されています。
更に物語の後半に登場する三人目の生け贄がいい。本作では「死者の体温」とは異なり、犧牲者の過去がモノローグの形式で語られるのですが、この女性が何というか「アンダー・ユア・ベッド」の魅惑のヒロインの再來というかんじでして。あの作品の旦那は完全なサディストでしたが、本作の夫は何もできないグスグスな小心者。ところが彼女の口を滑らせた一言に逆上して人格が變わってしまいます。まあ、結局最後はトンデモない嗜虐者へと変貌して、彼女の方も蓮っ葉な罵り言葉で應戦するあたりも「アンダー」の展開を思わせ、ニヤリとしてしまいましたよ。
「アンダー……」では旦那の車はランクルでしたが、こちらは「黄色のボルボのステーションワゴン」。ボルボといえば、ハイソなインテリが乗っていそうな車ですけど、黄色っていうのが曲者で、恐らくはこれ、90年代に限定生産された850T-5Rでしょう。まあ、これがマイカーって時點で、相当にアレな旦那であることは間違いなく、「アンダー……」のランクルといい、大石センセは本當に分かっていらっしゃるとここで自分は何度も頷いてしまったのでありました。
幕引きは今の大石圭らしいというか、期待通りの終わり方です。今回は「いつかあなたは森に眠る」の死体嗜好系の主題に、「1303号室」で見せた「死体を前にしてボーゼン」系をブレンドし、さらに「アンダー・ユア・ベッド 」の切なさ系をトッピングしたかんじ、といえば本作の雰囲気をうまく伝えていると思うのですがどうでしょう。
初期作から續く大石圭のエッセンスが濃厚に感じられる本作、作者の味のフルコースを堪能したい人には是非ともお薦めしたい傑作です。「アンダー・ユア・ベッド 」が好きな自分としては、「1303号室」よりも愉しめました。