「クドリャフカの順番」のレビューを書き上げてから三十分で讀了。薄いのに濃厚。これは傑作ではないでしょうか。
何というか、この苦く哀しい讀後感は當に「さよなら妖精」と同じもの。また本作は探偵役である折木の視点から一人稱で進められ、彼を取り卷く古典部の仲間が彼の視点から描かれているのもいいですねえ。
ベナレスから届けられた姉の手紙に從って、古典部に入部することになった俺こと折木は第二章の「伝統ある古典部の再生」から日常の謎系の事件に卷き込まれていくなかで、探偵としての才能に目覺めていきます。
そしてある日、同じ古典部の千反田からその探偵としての才能を見込まれ、七年前に行方不明になった伯父のことについてある謎をといてほしいと頼まれるのだが、……という物語。
本作は見事に「さよなら妖精」の構成を踏襲しています。本作でいう大きな謎というのがこの千反田の伯父に關するもので、これは「さよなら妖精」におけるマーヤの出自の謎と同じ役割を果たしています。
そして冒頭からの畳みかけるように繰り出される日常の謎と推理。ここから主人公であり語り手でもある俺、折田の個性を印象づけていく物語の展開が巧みです。
後半、探偵折田はひとつの結論を披露するのですが、何処か煮え切らない思いを抱いていたところに、姉からの電話を手掛かりに眞相へと辿り着く絲口を見つけます。
そして當事の事件の關係者から語られる事実と折田の推理が明らかにした、古典部の文集「氷菓」に込められていた眞實が明らかになった刹那にこみ上げてくる青春の苦さと哀しさ。
「さよなら妖精」ほどの強度はないものの、この短さでこれだけの物語をうまく纏めてしまう作者の手際の良さ。中編というくらいの厚さですが、この神高古典部シリーズはこれくらいの長さが一番良いのではないでしょうか。
してみると、「クドリャフカ」はやはり冗長なのではないかという自分の初讀の印象は間違ってはいなかったのかな、と思いつつ、この「氷菓」を讀んでいれば、今少し古典部の登場人物たちに感情移入も出來た筈で、あの物語を愉しむことも出來たのではというかんじもするし、……うーん、とりあえず「クドリャフカ」をすでに購入していて「氷菓」を未讀の方には、まず「氷菓」を讀んでから、とアドバイスしておきましょうか。
いずれにしろ本作は傑作。「さよなら妖精」が氣に入った人であれば、讀んで損はありません。おすすめ。