懷かしい! 本屋に平積みになっているのを見かけて思わず購入してしまいました。
ジャケ裏には「著者全面改稿のもと新装版として甦る」と書いてあります。あとがきを讀むと、プロローグの部分は全面的に書き直し、文章もかなり書き直しているとのこと。しかし前の文庫を本棚の何処にしまったの、いっこうに見つからないので(またかい……)、どの程度の改稿がなされているのかちょっと確認出來ません。
しかし再讀しても、若い頃に讀んだ時と同じ感動を味わうことが出來、やはり本作は「異邦の騎士」と竝ぶ青春ものの傑作だなあと感じた次第。
「私」が十五年前、まだ自分が十九歳だったころを回想するという、青春小説には定石の構成がまた素晴らしいんですよねえ。年上の女性への戀心、そして失恋、真実を知ったときの失望と再生、……主人公であり語り手でもある私の心の痛みが行間からひしひしと傳わってくる島田節がまた熱い。作者もあとがきで書いていますけど、この熱さって、今の島田莊司の物語にはないものですよねえ。この物語の語り手と「異邦の騎士」の語り手(敢えて名前は伏せます)を比較すると、性格は反對ながら若さに特有の熱をその内に祕めているという點ではまったく同じ。いうなればコインの裏表のようなかんじとでもいうか。
「異邦の騎士」の語り手がどうにもぐすぐずした性格に引きずられているのに對して、本作の語り手である私は、いまでいえば立派なストーカーですよ。
バイク事故で入院していた病室から見える家に住んでいる女性にひと目ぼれした私は、退院したあと彼女を尾行し、働いている会社にアルバイトとして潜入し、晝時には彼女が食事をとるレストランで話をする機会を狙ったり、……何というか、書き方によってはかなり危ない男です。思うに恋愛經驗もないまま十九歳になってしまった私はおそらくこのときまでは消極的で、大胆な行動に出ることなど考えたこともないような、ごく普通の少年だったのでしょう。どうにか彼女と話す機会を得て、彼女を映畫に誘うときの不器用さといったらありません。いいたいことがいえない、そして會話の展開まで事前にシッカリと予習しておいたりといった妙なところで律儀なところとか、若い自分を思い出して思わず赤面してしまいましたよ。
そんな私が、好きになった年上の彼女に振り回されるようなかたちで事件に卷き込まれていくのですけど、作中で殺人事件は起こらないし、讀んでいる間もミステリという雰圍氣はありません。
彼のアパートにおかれていた手紙のようなものなどがいくつかの謎としてエピローグであきらかにされるのですが、ここで初めてああ、この物語はミステリだったと氣づかされます。
彼が卷き込まれた事件の背後には、ある人物の強い動機が横たわっていたことが明らかにされるのですが、それが語り手である私のアルバイトの内容、そして冒頭のプロローグで提示された繪本の話と最後になって結びつくという趣向がまた心憎い。
ミステリ「以前」に上質の青春小説として愉しみたい傑作です。「異邦の騎士」を讀んで島田莊司に惚れ込んでしまった人には必讀の書といえましょう。大推薦の一作。
はじめまして。
今日、この作品を、旧作新作ともに読み終えたので、感想探して徘徊していました。
とっても面白かったです。
そうそう。彼は立派なストーカー♪
でも恋愛って、そういうほとばしりみたいな熱情が突き動かす行動力というのがよいのですよね^^
島田氏の力強さを感じさせる力作だったと思います。
こちらには読みたい本、読んだ本がいっぱい♪
また遊びに来させてください
さくらさん、こんにちは。
まだ本作が出ていた當事は、ストーカーなんて言葉もなかった譯で、武田鉄矢主演の某ドラマが恋愛ドラマとして認知されていた昔の話ですからねえ。
しかし本作、さらに十年後、二十年後も人が讀んだらどういう感想を抱くのか、……ちょっと不安、というか興味あります。
夏、19歳の肖像/島田荘司
(文春文庫)
バイク事故で入院中の青年が、病室の窓から目撃した「谷間の家」の恐るべき光景!ひそかに思いを寄せる憧れの女性は、父親を刺殺し工事現場に埋めたのか?退院後、青年はある行動を開始する・・・。青春の苦い彷徨、その果てに待ち受ける衝撃の結末!
新本格?..