昨日は時勢にとらわれず淡々と、などと書いたものの、やはり今日は本格ミステリ大賞ネタでいってみますか。
今年で第五回となるこの賞でありますけど、第一回の大賞はどんな作品が獲得したのかというとこれ。というか、すでに「本格ミステリ」として見た場合かなり微妙な作品が第一回の大賞を受賞してしまっているあたり何ともなあ、というかんじがしないでもないのですけど、自分としてはこの作品、當事は別の意味で興味深く讀んだ記憶があります。
というのも、本作のミステリを構成するアイテムのひとつになっている電波系文書。これがいい。ミステリではないのですけども以前に「救急精神病棟」を取り上げたおりにも書いた通り、自分はこのテのものには目がないもので、頁を開くや唐突に始まる電波系文書の凄みに頭がくらくらしてしまいました。
作者の倉知淳も授賞式の場で、
私の作品に投票された方の中にも、受賞に首を傾げている方がいると思います。実は裏がありまして、私が夜な夜な悪い電波を送ってしまい、その結果、こういうことになってしまったのです。こういう不正は二度としませんが、この方法に効果があることが分かりましたので、今度は直木賞の選考委員に電波を送ろうかと考えています。
なんて物騷な言葉を吐いているのですけども、しかしちょうど同じ年だったかに、牧野修が「偏執の芳香」という傑作をリリースしていまして、この作品の中にも本作と同じような電波系文書が披露されているのです。で、どっちの方が凄いんだろう、なんて讀み比べてみたんですけど、うーん、やはり牧野修の方が異常なくらいリアルなんですよねえ。
それでも「偏執の芳香」の電波文書に軍配が上がるにはキチンとした理由がありまして、本作は電波系文書がそのまま仕掛けに絡んでくるのです。最初からいかにも不穩で獨りよがりな言葉が延々と続く氣味の惡い文書が極太のゴシック文字で續くのですが、犯人の動機があきらかになったとき、もう一度最初からこれを讀み返して思わずのけぞってしまいましたよ。
猫丸先輩シリーズのようなほのぼのとした日常の描写のなかにぶちこまれている電波系文書の違和感は確かに強烈。そしてこの強烈さに呑み込まれてしまうと、すっかり作者の術中にはまってしまうという仕掛けは素晴らしいです。この騙し方は「星降り山荘の殺人」を書いた作者らしいというか、とにかくミステリファンの斜め上を狙って繰り出される仕掛けには感心しました。
しかし本作を「本格ミステリ」として見た場合どうなんでしょう。
登場人物のなかではなく、ある手掛かりだけを頼りに不特定多數のなかから犯人像を絞り込んでいくというミステリは確かにありますけど(デクスターのあれとか)、本作の場合、そのしぼりこみ方が少しばかり大雜把ではないかなあと感じる譯です。
このあたり、もう少し手掛かりとなる決定的な物的証拠を多く散りばめておいてそれを最後に明かしてくれていたりすれば、もう少し、本格ミステリとしての純度が高められてさらに素晴らしい作品に仕上がったのではないかなどと考えてしまいました。
などと結構厳しいことも書いてしまいましたが、好きか嫌いかといわれれば大好きなんですよ、こういう騙し方は。ある意味、アレ系に近い惡どいやり方ですよねえ。極惡といってもいい。奇天烈な騙し討ちに唖然としてみたい好事家は是非手にとってみることをおすすめします。
こんばんは。
『壷中の天国』じつは読んでみよっかなと思っている本のひとつなんですがそういう話なんですかぁ~。その前にということで倉知さんの短編集を読んでいたのですが、「おお! taipeimonochromeさんのところで同じ作家の作品を取り上げてるぅ~」ということで衝動的なコメントなんです。たしかに“正統派”ではないですね。私はどちらかというと正統派好きですから、う~ん、いつ読めますか・・・。
deltaseaさん、こんにちは。
「星降り山荘の殺人」の騙し方が許せるのであれば、全然問題ないと思うんですけど、ああいうやりかた、……何というんですかねえ、後ろから不仕打ちを喰らわせるような騙し方が許せない人は、もしかしたら駄目かもしれません。ご存じの通り、自分はこういうのが大好きなので、本作はお氣に入りの作品になってしまう譯です(笑)。
学生時代本屋でバイトしていたんですが、その書店があった商店街で電波系の名物おばあさんがいました。自分が病院でどんな虐待を受けているかをA4の紙に縦書き横書き混在で1分の隙間もなくビッチリ書いて、商店街のお店に配って歩くんですよ。うちの書店の店長が稚気(?)のある人で、何故か出版社のチラシとかといっしょにレジのところに貼ってました(笑)
で、定期的に入院して、そのうち”新ネタ”を仕込んでまま戻ってくるというのを繰り返してましたねぇ。あのおばあさんはどうしているんだろう・・・。
そういや最近電波系って言葉を聞かなくなりました。もう死語なのかな?
take_14さん、こんにちは。
この店長さん、ちょっと好きです(笑)。
自分は昔からどうも電波系の方々と縁があるようで(平山夢明か?)、街を歩いていても結構出会ってしまうんですよねえ。つい最近までこのネタ「だけ」でブログつくろうかと考えていたくらいで。
電波系に限らず、ナニナニ「系」って言い回し自体が舊いのかもしれません。自分がよく使う「アレ系」っていうのは駄目なんでしょうけど、ほかにいい言葉が見つからないですしねえ……。