ホラーに伝記にSFと、マトモに仕上げても十二分なクオリティを持てるのに、駄洒落ネタを爆発させて最後には読者を脱臼させてしまうという悪ノリな展開がサイコーな珠玉の短編集。
収録作は、イヤ女の復讐メールが煉獄を引き寄せる「ミミズからの伝言」、いじめられっ子が唯一の憩いの場である図書館で魔と出会う「見るなの本」、ほのぼの童話を装いながエゴとグロが素敵な邂逅を果たした暁に弾ける脱力の結末とは「兎肉」、サイコミステリを装いながら極悪にして悪ノリの真相がタマらない「秋子とアキヒコ」、未開宇宙でのゲテモノ料理三昧にブラックなオチが苦笑を誘う「牡蠣喰う客」、収録作中、駄洒落の技巧においてはピカ一ともいえる「赤ちゃんはまだ」、壮大な伝奇モノの風格にエログロ奇想をマックスでブチ込んだ傑作「糞臭の村」の全七編。
まさに捨て作ナシという傑作揃いで、表題作の「ミミズからの伝言」はタイトルからしてヤバさが横溢する逸品なわけですが、内容もキ印めいた女の携帯メールで綴られるという試みも素晴らしい。相手に対する恨みつらみをネチっこく書きつらねていく筆致も素晴らしければ、ミミズダイエットのミミズを養殖して大儲けから奈落へと突き落とされる語り手の逸話も苦笑せずにはいられません。ミミズという生理的にもかなりアレなモンがグチャドロと弾けるラストも最高で、その脱力のオチがまた女の独白という結構にも絶妙なマッチングを見せています。
「見るなの本」は、タイトルの違和感からおおよそこういうネタだろう、という予想がついてしまう方もいるのではないかと推察されるものの、いじめられっ子に対する陰湿なイジメの小ネタからしてかなりアレ。そんな端緒のイヤっぷりをものともせず、学校の怪談から件の駄洒落へと帰結する悪ノリも秀逸です。
「兎肉」もまた、童話か昔話に擬態した風格に相反して、そのネタの極悪ぶりがいい。「見るなの本」のネチっこいイジメも相当にアレでしたが、こちらも可愛い動物たちが何ともひどい目にあうという、どんなに昔話を装いながらもゼッタイ子供に見せちゃダメという極悪ぶりがもう最高。
「牡蠣喰う客」は舞台が宇宙というあからさまなSFでありながら、そのネタは筒井御大も苦笑するしかないという宇宙の珍味ならぬゲテモノ料理がワンサカ出てくるという奇想がいい。そして冒頭に登場する妖しい風体のあるものが最後に何であるのか明かされるという絶妙な幕引きも盤石です。
これすべて駄洒落ネタという脱力脱臼が本作の最大の読みどころともいえるわけですが、駄洒落の「技巧」という点でピカ一なのが「赤ちゃんはまだ?」で、会社の跡継ぎ絡みでどうしても子供が欲しいという夫婦がワルな新興宗教にカモにされるという展開はフツーながら、その新興宗教の正体が明かされたあとに、駄洒落によって見事な連関を見せる「技巧」はもうそれだけでも拍手喝采したくなるという素晴らしさ。まあ、教祖がアレというのは誰もが予想できるところでしょうが、そのほかのアレがまさかアレで、というのは完全に想像の斜め上を行く悪ノリぶりで、これだけでも作者の駄洒落につきあった甲斐があったと苦笑してしまう逸品です。
最後を飾る「糞臭の村」は、『水霊』や『蠅の王』を思わせる壮大な伝奇小説ながら、この短さの中にエロからグロからくっさーいきったなーいネタまでをマックスでブチこみつつ、最後は読者の期待を裏切らない駄洒落まみれで幕とするまとめが秀逸です。田中式伝奇ワールドでは定番の、誰も信じないケド今世界はヤバいんだよッということに気がついた主人公の地獄巡りには苦笑するしかなく、特に今回は和ものの伝奇ネタがアレと融合した結果、最後にトンデモないものが出てきて謎かけをされるという最後の奇想にはもう唖然。奈落に堕ちた主人公が「終章」でブツブツと恐ろしい体験を呟いてみせるところでも笑いがとまらないという、最後まで読者を笑い死にさせるよッという田中氏のサービス精神にはもう脱力、……否、脱帽するしかありません。
伝奇にSFにミステリと様々なジャンルを横断しながら、奇想と駄洒落については作者ならではの手管と技巧で笑わせてくれるという一冊で、新春初笑いにもオススメしたいと思います。