地雷本ということで手に取った前作が思いのほかイケている一冊だったので、第二弾も結局買ってしまいました。アマゾンなどでは散々な言われようですが、前作以上に本格ミステリとしてはなかなかのセンスを見せていて、個人的には、……あくまで個人的にではありますが(爆)、堪能しました。
収録作は、一巻で告知されていた通り全国探偵大会に出場することになった「あっはっはー」のボクちんたちの大会で難問(?)に挑戦する「開幕! 全国探偵大会」、大会に参加した時に発生した奇妙な事件を描いた「食物連鎖事件」の二編。
メリケン甘菓子のような、毒毒しい色使いと歯が溶けるんじゃないノ、というほどの強烈に甘ったるい台詞回しがおぞけを誘った前作に比較すると、今回は慣れていたゆえか「あっはっはー」や「うわっふー」も含めてそれほど気にならず、地の文がシッカリしていることもあって読みやすいところも好印象ながら、注目すべきは本格ミステリではかなりの大技ともいえるネタをさらりさらりと開陳してみせるその大盤振る舞いで、特に第三話の「開幕! 全国探偵大会」は、最初こそクダらないクイズでお茶を濁しているところがアレながら、いよいよ本丸の謎が提示されるや、現代本格としても秀逸なネタをズラズラと展開していきます。
謎の様態としてはありふれた日常の謎ながら、あからさまにホワイダニットがこの謎の眼目と誘導しておきながら、最後にはひねりを加えて意想外なフーダニットへと着地するロジックの展開も見事なら、このひねりの伏線として、再現フィルムの謎解きの過程で見るものと見られているものといった境界線をぼかしていくとともに、中盤では探偵の側に立ち、謎の外側にいるべき主人公が犯人にされてしまうというねじれによって意外な犯人へと繋がる転倒をシッカリと用意してある結構も秀逸です。
一見すると、捨てネタの中で主人公が犯人と指摘されてあっはっはーとなる展開は、いかにも強引で、本格ミステリのイロハも知らないボンクラがヤケクソに書き殴ったようもに見えてしまうのですが、その前に再現フィルムの中で開陳されている映像の外に伏線が隠されているという強引な推理をぶちまけることで、謎の内側と外側の垣根を取り払い、さらには探偵の側にいる主人公が件の事件に関わっていたことを明示することで、探偵と犯人という立ち位置をも曖昧にしてしまうという階梯を用意すし、件の意外な犯人へとたどり着くロジックをスムーズに見せています。
敵味方に分かれた推理合戦というありふれた趣向で光るセンスを見せつけてくれる一方、偽似鳥氏ならではの甘ったるーい台詞回しをシッカリとした地の文の中にブチ込んだ文章によって表現されているゆえ、一読するとこうした展開もまた色物に見えてしまうものの、ホワイダニットが意想外なフーダニットへと着地する流れの中に仕込まれたねじれや転倒を、そうしたオチへと繋がる伏線として精査していくと、本編の構成もまた単なるおふざけではない、作者の本格ミステリのセンスと技巧に裏打ちされたものだということが判るような気がするのですが、いかがでしょう。
続く「食物連鎖事件」では、暗号とミッシングリンクという、これまたお馴染みのネタで見せてくれるわけですが、本編では真相へとたどり着いた暁に、あっはっはーの主人公がヒロインを助けるべく奮闘するという、恋愛小説としての大活躍が見られる後半の展開がキモ。奇妙な暗合に導かれて探偵が事件の渦中へと巻き込まれてしまうという流れの中で、犯人の真の策略が見えてくるわけですが、事件を追いかけているうちに実は探偵が、――というねじれには、第三話のような探偵と犯人といった本格ミステリ的なお約束にくずしを交えた、作者の手癖も見えてきます。
――というかんじで、本格ミステリとして見ると、前作以上にその細やかな技巧を愉しめる一冊に仕上がってはいるものの、逆にいうと、まず謎があからさまに提示され、それを探偵が謎解きするという、どノーマルな本格ミステリの結構とはやや趣を異にするため、上に述べたような「狙い」に注力した読みを意図的に行わないと、「にゅはは」「うわっふー」といったメリケン甘菓子のような脱力の台詞ばかりが目に入ってしまい、現代本格としての読みに集中できない、というところがかなりアレながら、このあたりは、現代本格の技巧と構図に注力した読みを積極的に行うことで回避できるような気もします。
とはいえ、やはりごくごくフツーのライトノベルの読者でもドン引きしてしまうという台詞回しはこのシリーズ最大の個性でもありまた欠点でもあるわけで、そのあたりもまた例によって軽く引用してみると、
「くかー、くかー」「すーぴー、くーかー」「……ふにゅあ」「あっはっは」「つんつくつんー」「にゅああぁん」「住職さんのほっぺ、ほぉんとムニャプニュで」「わたしのほっぺだって、きちんとムニャプニュです」「わたしだって、いっぱいやわらかいんです」「あっはっはー」「頑張るぞエー!」「ふぁっひゃ……ふにゃあ!」「い、いえっふー」「にゅあ……にゅあ、ちゅあちゅあ」「あっはっはー。どうしよぉこれ?」「ちゅあちゅあ……」「わたしにも、ちゅうちゅあうをひとつくださいっ……」「にゃーにゃー。なんかねこが百匹くらい入りそうー」「にゅは。きくよー」「ちゃーらー、ちゃららちゃらーらー、ちゃららっららー」「るるるーー、るるるるー、あああー、ああああー」「らららー、ららららー、らららー、ららららー」「あああー、ああああー!」「にゅわわー、結構前だねー」「変装するのはいいが、般若の面をかぶるのはよすんだ!」「ピンポンッ、正解ですぅ」「ち、ちょっと住職さぁん! ぼくの乳首はボタンじゃないよ。押さないで!」「にゅはは、ゴメンゴメン!」「おふー」「ほぁー」「んくー」「うぉはー」「ズコー」「うぃ~~~~~~~~~~~っ!」「わたし、キュンキュンしちゃってます!」「うわぅ?」「にゃうー」「あっはっはー。飴ちゃんなら持っているけど、一コ舐めるかい?」「にゅはは。じんろー。ここはわたしの『猫推理』にまかれてみないかい?」「ふっ。まあいいじゃないか青少年」「にゃんぱす!」「ふにゅぁあん」「にゅははー。わたし、おうちがおもちゃ屋さんだからねー」「んにゅー。だからね?」「にゅああ。調子に乗ってばんばんいっちゃうよー?」「口にくわえる! ねこっぽく!」「にゃー。そんなことないよ。栗原にゃんー」「……はあぁぁぁ~~~~~~~~~?」「うひゃっ?」「メガネメガネ……」「すてーん!」「やっちゃいます……。ツン、ツンって」「つん、つんっ」「はい。いけないわたしにそうやってお仕置きするんです。ツン、ツンって」「ツン、ツンッ」「つん、つんっ」「……アッ!」「にゅははー。無理するからだよー」「ぽちっとな」「そしてひゅいーん。画面が切り替わった」「そんなにハラが減ってんなら、すしでも食ってろ! 山岡スシロー!」「いやしんぼ! 山岡スシロー?」「……あっはっはっはっはっはっは」「にゅはっ。だよねだよねー」「それではふたりで、なで、なで、なで」「栗原にゃんとダブル、なでー、なでー、なでー」「ふぁううぅぅ?」「にゅあん。わたしの方が気持ちいいよー。なでー、なでー、なでー、なでー!」「わたしのほうですよ! なでっ! なでっ! なでっ! なでっ!」「ゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシ」「うふあぁぁっ! あぢぃぃぃい!」「お、おーい。そこでいちゃついている三人組ぃ……。そろそろ思考タイムは終わりだよー」「ぴゅー~」「へ?」「にゃー! しくじったー!」「ツナマヨ・ザ・サディステッィク眼鏡!」「ホッホッホッ」「あっはっはー」「ムー……。プンプン!」「にゃんぱすー」「にゅふふ。これをプチプチやってるとねー。いつの間にか気分がすっきりするんだよ!」「ああんっ。わたし、そんなに単純な女の子じゃありませんっ」「ウフフッ。楽しい♪」「もっとつぶしていいですか? 気分がはずんじゃうんです。プチプチプチッ♪」「ぴゃう?」「うわっふー。ぼくも嬉しいんだぜ」「――チャクラ、解放!」「はんばーぐ!」
……ともうキリがないのでこれくらいにしておきますが、実をいうとダジャレも前作ほど多いというわけでないし、複数人の娘に乳首責めされたりと、エロミスとしてもアレなシーンが用意されているし、マトモなライトノベル読みでも思わずズコーとなってしまうふあふわキュンキュンな描写さえ華麗にスルーできれば、現代本格の技巧を愉しめるという一冊ゆえ、個人的には前作を知らない方であれば、こっちから入っても没問題という気もします、……というか、駄目な人は本当にダメということを考えれば、絶版になる前にひとまず本屋で見つけた方からゲットしておけば数年後には案外、呆王のダメミス『彼は残業だったので』のように狭い範囲で異様なムーブメントを引き起こすかもしれしれず、とりあえずネタとしても持っておいてソンはない、といえるのではないでしょうか。
相当のダメミス読みや地雷処理に手慣れた強者でも人を選ぶというかなりアレな本作、むしろどれだけアレなものに自分が堪えられるのかという腕試しに手に取ってみるというのもアリでしょう。言うまでもありませんが、かなりの好事家と、乳首責めや尻スパンキングといった変態プレイがワンシーンでもあれば没問題ッ、という奇特な方にのみオススメ、ということで。