メフィスト出身ながら、作者の作品を読むのが実はこれが初めて。とはいえ、ダークというよりは突き抜けたような明るさも兼ね備えたブラックさは藤子Aセンセを彷彿とさせるというか何というか、……気持ち悪いオバはんたちの奈落行を全ページにわたってブチまけたという逸品で、堪能しました。
物語は、カルト的な人気を誇るある漫画のファンクラブで怪しげな人死にが続発して、……という話ながらフーダニットを前面に押し出した本格っぽい風格ではなく、登場人物たちのアレっぷりやほとんどギャグにまで昇華された彼女たちの地獄巡りを活写することに力点が置かれています。もちろん、それらの人死にと隠された登場人物たちの連関に仕掛けをこらしてあったりもするのですが、とにかくリアルに過ぎるキモいオバはんたちの振る舞いを生暖かい視線で眺めながら読み進めていくだけで、この物語に引き込まれること間違いなし。
「エミリーとシルビア」、「ミレーユ」、「ジゼル」、「マルグリット」、「ガブリエル」と会員たちのそれぞれの名前がつけられた連作短編っぽい構成で、それぞれを独立した短編としても愉しめたりするのですが、冒頭の「エミリーとシルビア」からして、登場人物たちのアレっぷりはレブリミット。お人好しというよりはある意味バカ、と嘲笑してしまいたくなるエミリーもアレですが、そうした純真さを手玉にとって翻弄していく虚言癖のババアもアレ、さらには旦那もアレ、とアレづくしな登場人物たちがこちらの期待通り、――というよりは期待以上の堕ち方をしていく展開が秀逸です。
さらにこのアレっぷりの大盤振る舞いを引き継ぐかたちで始まる「ミレーユ」では、生活能力のない中年ババアが主人公ながら、この「いるいる、こういうオバさん、いるよねー」と思わずうなずいてしまいたくなる人物造詣が素晴らしい。パチンコに興じて部屋の片付けは出来ない、隣近所からも借金を重ねて周囲からはドン引きされているのに悪いのは自分じゃない、という責任転嫁の才だけは優れているという、典型的なダメ女の愚痴と、諦観を伴うクールな目線で淡々と語る母親のパートが交互に綴られていくという構成もいい。
パチンコ大好きで借金を重ね、……とここ数年のテレビCMのターゲットとしてはドンピシャな中年女が、クラブにかかわることでますます奈落に堕ちていくという展開とともに、最初の方ではマトモかな、と思っていた登場人物も後半に進むにつれて、やはりダメ人間だったことが明かされていくという結構も相当にパンチが効いていて、唯一人、読者としても感情移入が出来るカモ、と思わせる老婆の悲哀を際立たせています。
これが「ジゼル」へと進むと、疲れた中年女ならではの妄想まで添えて、謎めいた雰囲気で盛り上がっていくのですが、このあたりから件の人死の連関が仄めかされていきます。ここでも素晴らしいのは、いい歳してカルト漫画に入れ込む中年女の内面描写とともに、その周囲の人物の外の視点が対置されていることで、この対比から人死にの謎を照射していくという結構で、「マルグリット」では、アレな中年女の娘をこの外部の視点に据えて、いよいよ連続殺人事件として謎が立ち上がってきます。
フツーに考えればアイツが一番怪しいよな、というところをややずらしたかたちで、その人物の正体と、連続殺人事件の顛末が明かされるのですが、本作の黒さは事件がすべて消息したあとも勢いは止まることなく、また新たな黒い事件の起こりを予感させるかたちで幕となるところも素敵です。
人物造詣とそのディテールに至るまでの、アレすぎる描写やエピソードは抜群のリアリティを感じさせながらも、ほとんどギャグのレベルまで突き抜けてい、そうした黒い笑いを醸し出す作者の生暖かい視線と絶妙なマッチングを見せている「更年期少女」というタイトルもいい。更年期障害をイメージさせる語感はもちろんながら、「更年期」という中年ババアを象徴する単語とはどう考えてもミスマッチな「少女」という言葉の組み合わせにも作者の黒いセンスを感じます。
個人的にはデフォルメされながらもリアルでいるいる、と大きく頷いてしまう人物造詣が本作の最大の見所にも感じられるゆえ、サイコーのキャラ小説として愉しむのもよし、また気持ち悪すぎるババアどもが奈落へと堕ちていくその黒い過程をギャグ小説として堪能するのもよし、という一冊で、藤子Aセンセのファンの中年世代で、子供時代に「これだけ虐めが問題化しているのに、何でテレビはドラえもんしかやってねーんだよ。早く『魔太郎』をアニメ化しろ」とブー垂れたり、『ブラック商会変奇郎』を読んだあと、地元の文房具屋へ請求書を買いに走った経験アリ、というような方であれば文句なしに愉しめるのではないでしょうか。キワモノミステリを所望の方にこそ、オススメしたいと思います。