昨日、「天啓の殺意」を取り上げたので、ついでにこちらの方も。
本作は中町信のデビュー作、「新人賞殺人事件」を改稿して新たに創元推理文庫からリリースされたもので、昨日も書いた通り、ミステリとしての衝撃度は「天啓の殺意」よりも本作の方が上回っていると思います。
アレ系の仕掛けは勿論のこと、アリバイ崩し、密室といったミステリのアイテムとの融合が素晴らしく、平易な文体とも相まってとにかく讀者を飽きさせません。さらにいえば、本作の場合、事前にアレ系と知らなければ、探偵が推理する密室とアリバイの方に目がいってしまい、最後の一番大きな仕掛けにはきっと氣がつかずに讀みみ進めてしまう筈で、それ故にこの周到なトリックに見事騙されてしまうという鹽梅です。そういう意味でも、本作の場合、アレ系の仕掛けを極めるために、密室とアリバイといったミステリのアイテムを使用して、普通の推理小説を擬装しているといってもいいでしょう。また、アレ系の仕掛けも単純な故に破壞度が大きいという點も見逃せません。アレ系の傑作というのはすべてそうで、単純であればあるほど、眞相が明らかになった時の驚きというのは大きいものでして、本作などはまさにその典型といえるでしょう。単純な故に洗練されているともいえます。
長さもほどよく、贅肉のいっさいない、當に本格ミステリのお手本のような傑作です。数十年前の作品とは思えない、現代のミステリ愛讀者にも十分に通用するアレ系の歴史的作品として評價されるべきでしょう。おすすめ。
こんにちは。りょーちと申します。
「犯人を当てるぞ」と意気込んで本書を拝読しましたが見事に外れました。ただ、気分的には悪い気分ではなかったです。
>アレ系の歴史的
ですね。
ではでは。
中町信:「模倣の殺意」
模倣の殺意(創元推理文庫)中町 信出版社 東京創元社発売日 2004年8月上旬価格 ¥ 714(¥ 680)ISBN 4488449018bk1で詳しく見る りょーち的おすすめ度: 推理小説読了後、うまく…
りょーちさん、こんにちは。
そちらのエントリも讀ませていただきました。この作品、既に七十二年の時點でこのタイトルとしてリリースされていたんですね。その後にナンタラ殺人事件に改題されてしまったのが殘念です。
最近古本屋で中町氏の作品を見つけては拾い集めているのですけど、とにかくアレ系だけでミステリを書こうとする志に惚れました(笑)。創元推理文庫で過去作をもっと出してほしいものです。