「少女たちの羅針盤」の続編というかシリーズ第二弾。少しだけ成長し、自らの道を歩み始めた「羅針盤」メンバーたち。高校演劇大会に母校の演目を観にやってきた彼女たちがある事件に遭遇し、――という話。本格ミステリとして見れば、確かに前評判通り、その謎は、いやがらせなのか何なのか、娘っ子にナイフが送りつけられてくるのだが果たしてその人物の正体は、そしてその目的は、……というものながら、謎の様態がこのようなかたちであることにもシッカリと理由があり、それがまた物語全体の構図に昇華されているところや、犯人を弾劾するシーンの外連など、大いに堪能しました。
過去と現在のシーンを交錯させながらもドラマ性は過去の場面に比重が置かれていた前作に比較すると、今回はあの「羅針盤」のメンバーが成長した現在に焦点を絞り、演劇に打ち込む後輩の姿にかつての自分たちの姿を投影しながらも、考え方や立ち位置の違いに戸惑い、そして事件に対峙していく彼女たちの姿が丁寧な筆致で描かれていきます。
羅針盤メンバーが仕上げた脚本が後輩たちによって演じられるのですが、この脚本が後輩たちの手によって改変されているところが、このささやかな事件の展開に大きく絡んでいるところがミソ。秀逸なのは、改変で本来の物語からは欠けてしまったものを事件の解決と真犯人の告発によって回復させるという趣向でしょう。
これによって「羅針盤」のメンバーと後輩たちという世代間の差が埋められるとともに、本格ミステリにおいては最大の見せ場ともいえる告発のシーンを際立たせることで、二世代の共同作業によって本来の物語はさらに磨き上げられたひとつの作品として完成されるという結構が素晴らしい。
こうした二世代の対話と協調というドラマ性を鑑みれば、この真犯人の姿は必然ともいえるし、ささやかに見える謎の様態や、下の世代によって改変させられた物語を上の世代が推理によって回復し、犯人の告発を二世代が共同作業として行うことで一つの物語としてさらに完成されたものとする、――こうした物語全体の仕掛けが本格ミステリとしての構図と見事な調和を見せているところも秀逸です。
挿入された怪物のつぶやきから真犯人の姿を推理するという、ある種の定型ともいえる本格ミステリとしての見せ方にもささやかな誤導が凝らされているのですが、個人的にはこうしたフーダニットよりも、むしろナイフの出現という事件と、改変によって欠損した脚本の一部がナイフと短剣という共通項によって連関されるとともに、失われた部分を謎解きと告発によって回復させるという、――作中作の演劇とミステリとしての物語を重ねた構成のうまさに俄然、惹かれました。
そして最大の外連を見せる犯人の告発シーンの素晴らしさ。現代本格では定番ともいえるあるネタの完成にほくそ笑んでいた真犯人の陥穽を突き、こうしたかたちで弾劾してみせるという趣向も見事です。
過去と現在を交錯させ、フーダニットの焦点を絞った前作の方が一見すると、より本格ミステリらしく見えますが、考え抜かれた構図とその見せ方、さらには本格ミステリとしての趣向と人間ドラマを重ねた結構は、本作の方がより洗練されており、個人的にはこちらの方が断然好み。
第一回福山ミステリー文学新人賞受賞作である「玻璃の家」も、大団円へと繋がる推理の場面に独特の素晴らしい仕掛けを凝らした逸品でしたが、本作もまた、この告発場面の外連だけでも買い、といえる一冊ではないでしょうか。オススメでしょう。