本格ミステリというよりは、キワモノ・サスペンスというか、マッドサイエンティストものにエログロ・テイストをメイッパイにブチ込んだという怪作でありました。
物語は、キ印博士の統べる怪しげなサナトリウムに、伝説的ロックバンドの元メンバーが參集、その目的は元仲間の不審死に疑問を抱いたためだったが、彼らがその施設に入るとトンデモないことになって、……という話。
件の怪しげな施設に収容されているとおぼしき記憶喪失の人物と、元メンバーたちの視点から物語が進むにつれ、キ印博士の研究内容が明らかにされていくのですけど、これがまた、仮面ライダーとかに超夢中な小学生だったら一度は妄想するであろうという苦笑ネタで、そのガキんちょネタにエロやグロのフレーバーをブチ込んだ悪乗りぶりが素晴らしい。
一応、ミステリということで見てみると、冒頭、なにやら奇妙な暗合が登場するものの、こちらは猿でも判るようなレベルゆえこちらの方は敢えて軽くスルーしたまま、キ印博士の悪ノリとメンバーたちとの攻防など、疾走感のある筆致で描かれたサスペンスに浸るのが吉、でしょう。
タイトルにもある日向小町については、中盤以降にサラっと言及されるものの、とにかくキ印博士の研究内容の激しさが前面に押し出されるという結構ゆえ、「俺は誰だ」の疑問符とともに、複数の視点が入り乱れてテンヤワンヤと彈けまくる後半はもうグチャグチャ(褒め言葉)。
正直、謎を物語の中核に据えて展開されていくような作風ではないゆえ、奇天烈なロジックを期待するとアレですが、マッド・サイエンティストのネタを最大限に活用したキワモノ小説としては二重丸の出來映えで、タイトルにもあるどしゃぶりがHere comes the floodとなって、変態ワールドが浄化される幕引きも含めて「何だかよくわかんねーけど、凄いもん読んじゃったカモ」という余韻に浸れるのではないでしょうか。繰り返しますが、奇天烈なロジックの本格ミステリを期待すると大きな肩すかしを喰らうことになるので、その点だけは取り扱い注意、ということで。