最近古い本を纏めておいてある本棚を少しばかり整理しまして、ずうっと昔、学生時代に夢中になった讀んだ單行本や文庫本がたくさん見つかりました。しかし殘念なことに今はそのほとんどが絶版になっているんですよねえ。
例えば角川文庫で購入した式貴士。「虹のジプシー」はパラレルワールドものの傑作だと思っているんですけど、これも絶版。ハルキ文庫あたりがまた出してくれないものか。
そして泡坂妻夫の本作もまだ創元推理からは出ていないようで。乾くるみの「イニシエーション・ラブ」を讀んだ人だったら、作中でこの作品について言及されていたのを憶えている人もいるでしょう。
泡坂作品で好きなものは、と聞かれた時、まあ、初期長編に限れば「湖底のまつり」、「妖女のねむり」とそして本作の名前を挙げるようにしています(敢えて「乱れからくり」や「11枚のとらんぷ」は挙げない)。しかし……今アマゾンで確認したら、ハルキ文庫から再版された「妖女のねむり」も絶版ですか!本當にここ最近は一期一會というかんじで見つけた時には即購入しておかないともう、二度と手に入らない本もあったりする譯で
本好きには大變な時代になったものです。
まあ、絶版とはいえ佳作であることは違いはなく、ハルキ文庫か創元推理で再び文庫化された時には是非とも手にとっていただきたい本作、自分が持っているのは單行本なので、アマゾンから文春文庫のあらすじを引用させてもらうと、
思わぬゆき違いから結びついて、たがいに激しく憎悪しあうようになった男女が、太平洋にただよう小さなヨットの中で殺意をむき出しにして対決した。…そして絶海の孤島の松の木に、吊された死体が一つ。2人の間にいったい何が起きたのか?極限の状況で巧妙に仕組まれたトリックの謎。異色ミステリー。
これじゃあよく分からないですよねえ。まあ、簡單に物語だけを追いかけてみると、この小説、全体が五章に分かれていて、序章と終章のあいだに「迷う蝶」「夢の蝶」「死ぬ蝶」という三つの章が挿入されています。「迷う蝶」はある男の手記で、「夢の蝶」は關係者の証言、そして最後の「死ぬ蝶」は女性の手記という構成です。で、上のあらすじにある吊された死体というのは、この最初の手記を書いていた男の手になるものでして、この手記のなかで、男は船の上で女を殺し、そのあと船は漂流を続けたのち、ある島に辿り着いたと書いています。しかしその島で、自分が殺した筈の女が海からやってきた、とも記されてい、自分はその女に殺される、みたいなことをいっている。
實際、その手記にある通り、男はその島で吊された死体となって見つかり、女は救助されます。いったい何が起きたのか?というのが本作の面白いところ。というか、一番の謎は男が書いているように、殺された女が本當に生き返って彼を殺害したのかどうか。この幻想的な謎にはある大胆な仕掛けがなされていて、最後に眞相が明らかになります。「アレ」系のミステリではないのですけど、手記と証言という構成を巧みに使ったこの仕掛けは見事。「湖底のまつり」と竝ぶ幻想的な謎とミステリ的な仕掛けが満喫出来る佳作であります。おすすめ。