よくよく考えてみたら、マンサンの新作レビューなんていうのは、自分がやらずとも誰かがやるわけであって、やはり自分がここで取り上げるべきは、隱れた名作傑作といった作品であろう、と思いなおし、今回はかなりコアな一品を紹介したいと思う。
その名もマリア観音。日本のバンドであります。この「犬死に」は九十五年の作品だから、もう十年近く昔の話になるのだなあ。
ジャケからして「もしかしてプリンス? ってことは岡村ちゃんみたいな音?」なんて勘違いをしてはいけない。ジャケ寫によくよく目をこらしてみれば、ナルシスティックな男の背後に浮かぶのは木立に隱れた滿月。そしてジャケの色は漆黒。さらに裏を返せば、収録されている歌のタイトルは曰わく「漆黒界」、「刺生活」、「地獄に落とす」、「病床」、「二つ目小僧」、「蠍に貰った拳」ときている。尋常な音ではないだろう、或いは奇を衒っただけのコミックバンドか、……と考えるに違いない。
音はもう、ひたすら暗くて、そして熱い。振り絞るように繰り出される日本語の歌詞は帶に曰わく、「あらゆるロック精神とは全く次元を異にするハードプログレッシヴ歌謠……、強い感動が心地よい保証はどこにもない。この音は明らかに聞く者を選んでいる」。
実際そのとおりで、これは聞く人を選びますよ。嫌いな人は徹底して嫌いでしょう。で、のめり込む人は徹底してハマってしまうに違いない、そう……強いて挙げるとすれば、マグマのようなアクの強さ、というか。
当時のレビューなどを見てみると、マリア観音を論じる際によく引き合いに出されていたのが、ピーターハミルでした。確かに音も、そして歌唱法も、そして謠われている世界もまったく違うのですが、確かにハミルが歌に賭していた情熱というものは、このマリア観音に通じるような氣がします。
エレファントカシマシとか好きな人だったら、或いは分かってくれるかもしれないな、とか考えたりもするんですけど、エレカシの「音」とは明らかに違っているし、とにかく説明するのが難しいバンドです。
日本のプログレ、或いは昔のロックというと、ノヴェラとかジェラルドとか、洋楽を舊に洗練された音を聞かせてくれるバンドがある一方で、純日本というか日本の風土や土俗的な音から出発したバンドというのもあったように思うのですよ。例えば、YBO2、或いは音は全然違うけどもKENSOとか。マリア観音というバンドも、プログレの樣式に固執しない、日本人でしか出すことの出來ない音を体驗させてくれる貴重なバンドだったと思うのです。
だった、と過去形で書いてしまいましたが、今もマリア観音は活動しています。ただ、この「犬死に」を出した当時とは異なり、木幡東介のソロといった趣が強いように思われる故、最近の作品、「棄脱の天地」とかは聽いていません。「犬死に」の「漆黒界」や「蠍に貰った拳」を髣髴とさせるようなバンドの音だったら、ちょっと興味あるのですが、いかんせんあちこちのサイトを廻ってみてもレビューの情報が少なくて、ちょっと。