第7回「『このミステリーがすごい!』大賞」優秀賞受賞作。「このミス大賞」といえば、個人的には相当のイロモノ以外には興味がなく、マトモに手にとってみたのは日本ミステリ史上の汚点ともいえる美意子タンの「殺人ピエロ」以来なんですけど、――というのも、何だかジャケ帯などに添えられている惹句をはじめ、そのあらすじなどがいかにもそそりそうなものだったからでありまして、自分はミステリとして讀んでしまったのですけども、結論からいうとこれはホラーとして讀んだ方が絶対に愉しめると思います。
物語はタイトル通りに第三の眼だのトレパネーションだの、あやしい新興宗教っぽい謎の組織だの、遺伝組み替えの人体実験だのといったトンデモを添えたサスペンス・ホラーの風格で、冒頭、香山氏が解説で煽りに煽っているようなウップオエップなシーンが登場するものの、実をいえば平山センセの小説を読み慣れているホラーファンからすれば、これまたごくごくフツーに「ウヘヘ、気持ち悪いナ」と愉しめる心地よさゆえ、アンマリこのあたりのグロテスクなシーンで多くを期待しない方がいいカモしれません。
というのも、本作の場合、確かに冒頭、このウップオエップなシーンで讀者のツカミを得るという盤石さを見せるものの、寧ろそれ以降はヒロインの友人の失踪の謎を追いかけていくうちに謎の組織の存在だの転生だのといったトンデモなオカルトが姿を現し、それが最後にはB級的な微笑ましいアクションへと流れていくという結構ゆえ、グロとかそうした部分で物語を盛り上げていくという過激さは希薄です。
やはり注目するべきはとにかく不幸に見舞われまくるヒロインの造詣にありまして、どう考えたって何かに呪われているとしか思えないというようなヒロインのあまりにアンマリな実情から彼女の不安な心理を煽りつつ、それを読み手の意識と同化させるために第三の眼だの霊視だの生まれ変わりだのといった怪しいガジェットをふんだんに盛り込んでいるところは秀逸です。
ヒロインの脇を固める登場人物たちのキャラ立ちもまた見事で、ジャーナリストやオカルト雑誌の編集、さらには霊視したあと除霊はしてさしあげますがお代はウン十万円いただきますという守銭奴の巫女くずれ、さらには掌にアレがニョッキリ現れるという、何だかガキの頃に讀んだ小松左京の短編にもこういうグロいのがあったよなア、なんて昔を懐かしんでしまうような怪異に襲われるチンピラなど、そうした連中がときにヒロインを勇気づけ、また時にオカルト・ワールドへと引きずり込む先導役を果たしたりといった活躍を見せてくれます。
冒頭のショッキングなシーンからそうしたヒロインの主観に託して物語の不穏感を徐々に高めていくという風格にどこか既視感のようなものを感じてしまったのですけども、このあたりの不安を盛り上げていく雰囲気が早瀬乱の「レテの支流」と「サロメ後継」を彷彿とさせることに思い至りました。
実際に奇妙な人死にはあるのですけども、これについてトリックとかそのあたりのディテールに重きを置いた作品ではないゆえ、こうした部分に愉しさを求めてしまうのは御法度ながら、生まれ変わりに關してある驚きの趣向を添えているところなど、角川ホラー文庫でノベライズもされた某映画を思わせるところもあったりして、ミステリにおける事件とトリックといった仕掛けの連關はなくとも、終盤で明らかにされる眞相にはささやかながら驚きの装置を添えているところに「このミス」という賞にもふさわしいミステリーらしさを残しているといえるかもしれません。
ただ上にも述べた通り、個人的には早瀬乱氏を想起させる風格にして、実際の内容も不穏不安が立ちこめたホラー・サスペンスという物語で、一昔前の角川ホラー文庫あたりから出ていてもおかしくないような一作です。ミステリとして讀むとコロシに添えたトリックのナッシングぶりなど呆気にとられてしまうところもあるとはいえ、ホラーとして讀むのであれば、その不穏な雰囲気はなかなかに愉しむことが出來るのではないでしょうか。