シリーズ第三弾。何しろ前作がアレでアレという大変な終わり方をしていたため、いったい二人はどんなふうになっているんだろうと半ば心配しながら讀み始めたんですけど、小市民ボーイの探偵君は別の娘っ子からコクられて付き合うことに。で、一方の彼女も新聞部の年下君といいカンジになっていて、――という関係がまずあって、物語は探偵ボーイの日常におけるホームズ的洞察推理を交えたパートと、放火事件を追いかける新聞部の年下君のパートが平行して進みます。
主人公であるべき探偵ボーイの出番がどうにも少なくて、……というか、本作で提示される大きな謎は件の放火事件のミッシング・リンクというネタゆえ、どうしても新聞部の年下君のシーンが多く感じられます。恐らくはこれも下卷への伏線かと予想されるのですけども、その一方で、探偵君の小気味よい推理は相変わらず。ただ今回のネタは冒頭のメモとバスでの席取りという小粒さゆえ、日常の謎というよりも、それってリアル世界の日常でも一般人がごくごくフツーにやっていることなんじゃないの、特にバスの席取りは、なんてかんじでツッコミを入れたくなってしまうところがちょっとアレ(爆)。
というかんじで、探偵君の洞察推理にはもうすこし濃いネタを期待していたので、このあたりには物足りなさが残るものの、新聞部の年下君のパートは影の主役である暗躍娘への恋情を淡い筆致で描き出すとともに、放火事件との連關が明らかにされていくにつれて、件の娘っ子の操りめいた行動が炙り出されていくとともに、過去の事件が再び浮上してくるという結構は秀逸で、やはりこのあたりも下卷へと周到な伏線なのかな、という気がします。
こうして二人の語り手の視点から物語を描き出していくとなれば、新聞部の年下君が追いかけている放火事件が暗躍娘の関与を契機に探偵君のパートとどんなかたちで繋がっていくのかというところがキモでしょうか。放火事件そのものはごくごくフツーで、そのミッシング・リンクのヒントもとりあえず後半では明らかにされてしまっているので、これがひっくり返されないとしたら、どうやって犯人と一連の事件の背後に隠された構図が明かされていくのか、そしてここに米澤氏はどのような現代本格の技法を用いて魅せてくれるのか、――下卷に期待したいと思います。