前半の展開がどうにも奇妙でゆったりしているので、ハズれかなア、なんて感じで讀み進めていったら後半は「百万のマルコ」にも通じるトンデモなロジックによって前半のヘンテコな展開が全て伏線へ轉じるという離れ業を披露、余韻を残した幕引きも含めて非常に堪能しました。
物語は「山月記」からの引用で、主人公となるボーイが虎になった父親を捜しに出かける、――と簡単に纏めてしまえばそれだけのお話ながら、ここにミステリーYA!ならではの成長譚としての結構を凝らして秀逸な本格ミステリとして仕上げた逸品です。
前半は上にも書いたように、虎になった父親を捜しにボーイが出かけていくのですけど、虎になった父親と最後に会ったという友人の手紙を頼りにその人物を訪ねていくものの叶わず、妙チキリンな質問をされて唖然としたり、立ち寄った先では怪しい老師に出会って禪問答を仕掛けられたり、酒飲んで酔っぱらって暴れたといった妙な展開に、いったい虎になった父親捜しはどうなったのよ、なんて唖然としながら讀み進めていくと、中盤以降、件の怪しい老師の再びの禪問答によって物語は摩訶不思議な技巧を開陳しながら、虎になった父親の真相が明かされていくというスリリングな展開を大開陳。
それによって件の奇妙な問いかけや、老師の意味ありげな言葉がこの真相へと辿り着くための「気付き」を元にした重要な伏線であったことが明かされるといったあたりの技巧もスマートで、さらにはそこに、この時代、この物語世界ならではの手紙や伝聞情報に意図的な操作をも加えながら、虎になった父親という言葉の真意を述べていく流れは秀逸です。
「虎」という言葉にこの物語の背景が密接に連關している真相など、現代思想やらポストモダンやらの難解なジャーゴンを引用しながら喜々として本作のこの試みについてグタグタと説明してみせるミステリ評論家の姿が容易にイメージされてしまうところがアレながら(爆)、そうした評論家の食い付きを意識したネタを離れて讀んでも、真相を知ることによって主人公が大人へと成長していくという本格ミステリならではの人間ドラマの結構を大いに愉しむことが出來るのもミステリーYA!というこのレーベルの一冊に相応しく、YA!世代の讀者も大いに愉しむことが出來るのではないでしょうか。個人的には「百万のマルコ」がツボだった「奇天烈」好きのミステリ讀みに強くオススメしたいと思います。