物語を強引に纏めてしまうと、イヤ女に振り回されるダメ男たちの図、――というふうになってしまうものながら、そこは結城ミステリ、冤罪でム所にブチ込まれることになった元刑事が過去の事件の眞相を追ううちにまた新しいコロシがあって、――というふうに謎めいた女を中心とした男關係に過去の冤罪事件と現在のコロシを交錯させた結構も盤石で、さらにはシッカリとした謎解きの伏線を凝らしてあるところは流石です。
物語は二部構成に分かれていて、第一部では元刑事がかねてより惚れていた憧れの女に好きよ好きよと迫られて、据え膳喰わねばと男の恥と結局は一夜をともにするも、その翌日に至っても女のことを忘れられない。で、またまた彼女のアパートに行ってみると、不審人物が部屋から出てくるところを目撃し、彼女の部屋に行ってみると、女はすッ裸のマンマで殺されている。男は自分が犯人と勘違いされてはヤバイ、とその場で逃走してしまったのが運の尽きで、結局、アリバイ工作や現場の指紋を拭き取ったことなどもろもろの行為が総て裏目に出るハメに。
冤罪を晴らすべく、かつて助けたヤクザの組の弁護士を雇うことになるのだが、――というところで第一部はやや唐突に終わり、續く第二部ではイッキに時間は流れて、男が出所してからの物語が語られていきます。ここからが本番で、自分をハメた人物を捜すため、謎めいた彼女の過去を探っていくうちに、かつて自分が惚れた女の暗部と対峙しながらも男は事件の真相へと近づいていく……。
真犯人の方は何となく察しがつくというか、男が女の過去の男遍歴を探っていくうちに、ソイツが様々な事件にさりげなく絡んでいくさまが明らかにされていくにつれ、恐らくこいつが犯人じゃないかな、なんてかんじで讀み進めていくのですけど、しかしそうした事件の謎と平行して暴かれていく女の正体がもうアンマリ。フツーの男だったらこうした女のイヤなところを見つけただけでも相當に挫けてしまうのではと推察されるものの、女がかつてパトロンとしていた男たちがそれなりの見識を持った紳士であったことが唯一の救いといえば救いでしょうか。
コロシに關しては現場に残されていた不審な箇所を「気付き」として、それらの眞相が暴かれていくのですけど、特に女の過去の謎めいた行為に關しては、作中にもある通り、「わかった事実はあまりに索漠としてい」るところがまた本作の全体に横溢する孤獨と哀切をより際立たせているところが秀逸です。
謎解きそのものはシンプルながら、女の正体が繙いていく過程と過去の事件の真相究明を交錯させた結構もスマートで、男の哀愁をイッパイが感じられる佳作といえると思います。