「カカオ80%の夏」に續く三浦凪を探偵としたシリーズ第二弾。今回は華やかなモデル界を舞台に業界のドロドロした内幕を事件の構図に据えた物語で、ノッケから東京ガールルズコレクションを彷彿とさせるド派手なファッション・ショーのシーンからスタート、凪の友達であるプロモデルの一人が、ライバルモデルの娘のとある事件に關してあらぬ言いがかりをつけられたのをきっかけに、件の事件の眞相を明らかにするため凪が奔走する、――という話。
探偵の友人であるモデルがライバルの娘にあげたマスカラをつけたら顔が小岩さんになっちゃってショーをドタキャン、という話が業界に広まるや、これが件のマスカラのメーカーをも巻き込んだ業界の内幕劇へと発展、――という定番的な展開にリアリティ溢れる今日的な話題を盛り込んでいるところが秀逸で、上に挙げた東京ガールズコレクションに始まり、友人のモデルが出ている雑誌の出版社が護国寺にあったするところから、じゃアその雑誌っていうのは「JJ」か「ViVi」か、なんて妄想しながら讀み進めていくと、モデルのイヤ男がやたらと怪しげに探偵の娘っ子につきまとってきたり、あるいは件の事件の被害者でもあるライバルのモデル娘が失踪したりと、しっかりとしたキャラ立ちは勿論のこと、テンポの良い展開で見せてくれるところも好印象。
しかし件のマスカラ事件に關しては、最初、「余分に買ってあったレッド・マスカラ」を件のライバル娘に分けてやった、なんて記述があるものですから、ミステリ讀みとしてはすわ毒殺を想起させるねらい打ちのトリックが炸裂するのかと期待していると、そうした意味ではやや意外な方向へと進んでいくゆえ、本作はあくまで高校生の探偵娘を主人公にしたハード・ボイルドタッチの逸品として愉しむのが吉でしょう。
高校生の娘の一人語りでハードボイルドの風格を前面に打ち出した物語とあれば、必然的にハードボイルドに期待されるストイックな語りと、女子高生というキャラから当然イメージされるキャピキャピぶりとのギャップが気になってしまう譯ですけども、本作では前作「カカオ」と同様、そのあたりの語りの巧みさにも注目で、いたずらに描写を盛り込むことなく、前作の物語から生まれた登場人物たちとの背景もしっかりと透かし見せながら、主人公には引き算を基調にしたストイックな語りをしてみせるところも素晴らしく、例えば、
かつてジェイクは私の母に失恋をした。そのとき蜂蜜入りの紅茶をいれて慰めたのが私だ。以来、私たちは友達になった。
なとどいうあたりの語りの旨さには、はっとさせられてしまいます。
事件が發生しそれが解決されるというミステリの結構ながら、その事件の背景に陰惨な香りはなく、ミステリーYA!というレーベルならではの暖かい幕引きを添えているところは期待通り――、とはいえ最後の「シークレットライブ」での、口コミが口コミを呼んでの盛り上がりぶりは明らかにやりすぎ(爆)。しかしこれによって事件の黒幕が炙り出されてキ印めいた行動へと打って出るところをクライマックスに添えて、派手に展開される後半はまさにドラマを見ているような感覚を堪能できるゆえ、これはこれで良いのかな、という気もします。
あと、探偵とマスターの關係も、お互いがお互いを意識しながら微妙に焼き餅をいたり焼かせたりするシーンもあったりして、この後、二人がどんなフウになっていくのかも期待してしまいます。「カカオ」を面白く讀めた人であれば、まず間違いなく気に入るであろう佳作といえるのではないでしょうか。