前回ずっと讀んできた懷かしの創元推理、連作短篇「日常の謎」編だけども、では連作短篇の古典といえば何だろうと考えたところ、自分にとっては泡坂妻夫のこの作品かなあ、と。
自分の手許にあるのは双葉文庫版ですけど、現在は創元推理文庫版が手に入りやすいはず。この作品、最初にこの本が世に出たのが昭和五十一年。幻影城が創刊されたのがその前の年、昭和五十年と記憶していますから、當に泡坂妻夫は當事の幻影城を擔う作家のひとりだった譯ですねえ。
連作短篇といっても厳密にいえばその構成は少し異なっていて、全体は大きく三部構成となっています。一部で語られるのは、クラブの奇術公演の模様なのですが、そこで殺人事件が発生します。
そして二部には奇術クラブのひとりが書いた小説「11枚のとらんぷ」が収録され、それが連作短篇の形式を踏襲している譯です。
最後の第三部はいわば解決編ともいえ、そこで犯行方法、及び犯人が推理されるのですけど、そこで提示される手がかりは第二部の連作短篇のなかに隱されている、という趣向です。
とにかく凝りに凝った構成。そして第二部の洒脱な小説の一編一編がまた素晴らしい出來で、これがいい。「僕のミステリな日常」ののように連作短篇のすべてを取り込んで全体の仕掛けを最後にあきらかにするような派手さはないですけども、これを讀んだ當事は、「おお、短篇のここに、こう書いてあったか!」などと大いに驚いたものでした。
短篇のひとつひとつで派手な殺人事件が起こるわけではないけども、それぞれにミステリ的な仕掛けをいかした妙味があり、それらが最後には有機的に繋がって謎解きがなされるという形式を示したという點で、本作が創元推理の「日常の謎」派に与えた影響も少なくないのでは、と感じた次第。おすすめ。