プイグというと、映畫化もされた「蜘蛛女のキス」の方が有名なのだけども、この「赤い唇」も物語としては恋愛小説を裝ってはいるものの、全編これ前衞的手法で書かれている傑作といえる。
物語の方は大きく第壹部、第貳部と分かれていて、第壹部は手紙から始まり、第貳部もまた第壹部の冒頭で引用された手紙への返信という體裁を取っている。
手紙、記事、台詞だけでなく、中盤には言葉の羅列が延々と続いたりして、以下、引用すると、
「……乘り合いバス、車の大揺れ、土埃、車窓、平原、金網、牛、牧草、運転手、帽子、車窓、馬、農場、電信用の電柱、前の座席の背もたれ、脚、ズボンの筋目、車の大揺れ……」
というかんじである。これはファンカルロスがヒロインに会いにいくシーンで、第壹部のクライマックス。まあ、普通の小説を讀みなれている人にはちょっと取っつきにくいかもしれないけども、第貳部の最後、彼が書いた手紙が燒却爐に投げ込まれ、その斷片が書かれるラストシーンは印象深い。
物語の展開自體は非常に単純だし、上に上げた前衞的手法というのも、そのほとんどは会話と手紙文から構成されているので、小説自體は讀みやすい。ラテンアメリカの小説というと奇矯で取っつきにくいものが多いけども、プイグのこの作品と「蜘蛛女のキス」は題材自體もわかりやすいし、おすすめ。