昨日講談社文庫になった綾辻行人の「殺人方程式」を取り上げたんですけど、これ、よく見ると、カッパブックス版や文庫版とあらすじの文章が違っているのですね。アマゾンで見てみると、以下のようなかんじ。
「首なし死体に翼が!?
鮎川哲也氏も絶賛した傑作本格!
新興宗教団体の教主が殺された。儀式のために籠もっていた神殿から姿を消し、頭部と左腕を切断された死体となって発見されたのだ。厳重な監視の目をかいくぐり、いかにして不可能犯罪は行われたのか。2ヵ月前、前教主が遂げた奇怪な死との関連は? 真っ向勝負で読者に挑戦する、本格ミステリの会心作!」(講談社文庫版)
「「く、く、首がない!」小心刑事・明日香井叶の眼前には、なんと、首と左腕が切断された死体が―!被害者は『御玉神照命会』の教主・貴伝名剛三。彼は本部ビル内で”密室”状態にあったが、何故か、死体が発見されたのは川を越えた対岸のマンションだった。しかも、前教主・貴伝名光子が謎の死を遂げた直後の惨劇。やがて息子の光彦に嫌疑が…叶の双子の兄・響が周到に練り上げられた完全犯罪に挑む。ミステリー界期待の大型新鋭が、空前のトリックと、強烈ドンデン返しで世に問う、堂々の本格推理登場。」(カッパ・ノベルズ版)
比較してみるとカッパブックス版の方が若干詳しくなっているだけで、別段大きな違いはありません。で、今回取り上げる「星降り山荘の殺人」なんですけど、これはですね、文庫版とノベルズ版と大きく違っているんですよ。まあ、ノベルズ版は入手が難しいみたいなので、皆さん文庫版を手に取る人が殆どなんでしょうけども、ここは是非ともノベルズ版の解説を讀んだあと、本文に挑んでいただきたい譯です。ノベルズ版の内容紹介は以下の通り。
雪に閉ざされた山荘。そこは当然、交通が遮断され、電気も電話も通じていない世界。集まるのはUFO研究家など一癖も二癖もある人物達。突如、発生する殺人事件。そして、「スターウォッチャー」星園詩郎の華麗なる推理。あくまでもフェアに、真正面から「本格」に挑んだ本作、読者は犯人を指摘する事が出来るか。
何で自分がこうまでしてノベルズ版の方をおすすめするかは、本書を讀んでいただければ分かります。といってもこれだけでは全然ネタになっていないので、未讀の方は御遠慮いただくとして、この物語を讀んだ方とだけ、見事に騙されたこの悔しさを共有しましょうかねえ。ええ、自分は見事に騙されしてしまいましたよ。さて、今回ばかりは文字反転させます。
すでに文庫版を讀まれた方だったら、このノベルズ版の解説自體が見事なひっかけになっていることはおわかりですね。そう、以下の文章です。
「突如、発生する殺人事件。そして、「スターウォッチャー」星園詩郎の華麗なる推理。」
普通、こんなふうに書いてあったら、誰だって、探偵役はこの星園詩郎だと思うじゃないですか。しかしアンフェアではないでしょう。だって後半、つまり眞犯人があきらかになる前、確かに「星園詩郎の華麗な推理」が披露される譯ですから。更に作者は「七十五羽の烏」と同じように、すべての節の前に簡單なあらすじを挿入しながらも、そのなかにミスディレクションを含ませたりする周到さです。
勿論犯人を知って、怒り出す人がいるのも分かります。ただここは、こうまでして讀者を騙そうとした作者の巧みさに拍手を送るべきではないでしょうかねえ。上のやり方、確かにあざとくはありますけど、アンフェアじゃないとは思うのです。
という譯で、未讀の方、文庫版を手に入れたら是非とも、上に引用した物語のあらすじにシッカリと目を通して頂き、この物語に挑んでいただきたい。讀み終えたあと、この本を投げつけるか、或いは自分と同じように気持ち良く騙されて呆氣に取られるかはお愉しみということで。
星降り山荘、懐かしいです。
私は見事に騙されました!もちろん、ノベルズ版で。
確かにこの騙しのテクニックには脱帽せざるを得ないですね。
でも、小説としてはあまりにお粗末過ぎてつまらなかったのですが、文庫で少しは改善されたのでしょうかね・・・。
ところで、文庫の方には解説とかついてないのでしょうか。
おとぎさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
えーと、文庫版の解説なんですけど、西澤保彦が結構熱い文章を書いています。それと、本作が「つまらなかった」とのことですけども、これについては西澤氏がこの解説のなかで貫井徳郎の発言を引用していまして、貫井氏いわく「本格とは面白くなくて、つまらないもの」なんだと(笑)。
確かに本作、騙すことばかりに力を注ぎすぎて、他の倉知氏の作品と比較すると何か登場人物も印象に殘らないし、果たして小説としてはどうかな、……と感じたりもするのですが、きっと西澤氏も同じ感想を持っていて、先の貫井氏の発言を引用したのでは、と邪推したりして(考え過ぎだって)。
星降り山荘の殺人
星降り山荘の殺人倉知 淳〔著〕講談社 (1999.8)通常2^3日以内に発送します。オンライン書店ビーケーワンで詳細を見る
雪に閉ざされた山荘。そこは交通が遮断され、電気も電話も通じてい
[*文学][ミステリ・サスペンス] 「星降り山荘の殺人」
星降り山荘の殺人著者: 倉知淳出版社: 講談社(文庫)発売日: 1999/08【Amazon】 【bk1】 雪に閉ざされた山荘。ある夜、そこに集められたUFO研究家、スターウォッチャー、売れっ子女流作家…
はじめまして、thousaと申します。いつも記事を拝見させて頂いております。恥ずかしながら以前こちらで猫丸先輩の本を紹介しているのを拝見して、初めて倉知淳なる作家を知りました。星降り山荘ではやはり騙された口です・・・ 感想を書いたトラックバックを送らせて頂きました。本書が楽しめたのでこちらを参考させて頂きながら他作品をいろいろ読み倒したいと思っています。
thousaさん、こんにちは。
本書は意見が分かれるみたいですね。確かに小説の結構はベタに過ぎて冗長な部分もあるんですけど、都筑道夫のあちらの作品を讀んでいた自分としては、まあそのあたりはいいかなと。そういう讀者を想定してのあの騙し方も全然問題なし、という譯で、作者の作品の中では結構気に入っているんですけどねえ、個人的には。
そちらのレビューで「殺戮に至る病」を出していたのは面白いなと思いました。確かに作者の意圖的な仕掛け、という點ではある意味、アレ系のトリックに通じるものがありますよね。